高齢者の政治パワーが増大する地方選挙は、年金・社会保障が最大の争点にならざるを得ない
ところで、選挙前半戦の告示日前に、「週刊プレイボーイ」(集英社)で、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事で内閣官房地域活性化伝道師の木下斉さんと地方政治と経済活力について硬派な対談をしたのですが、ずいぶん読まれたようで、女性の水着画像が大量に掲載される雑誌なのに読者反響が上位でした。そろそろ読者も親の介護に直面する世代だったりするらしく、切実なのかなあとぼんやり思ったりもします。
【参考記事】
・4月8日付週プレNEWS記事『東日本大震災の復興事業は地方創生の失敗モデルになっている』
http://wpb.shueisha.co.jp/2015/04/08/46201/
・4月12日付週プレNEWS記事『統一地方選は“できないこと”をはっきり語る候補者を選ぶべき』
http://wpb.shueisha.co.jp/2015/04/12/46452/
・4月12日付夜間飛行記事『人間迷路 Vol.126 ここらで統一地方選挙(ただし前半戦)の総括でもしとくかという話』
http://yakan-hiko.com/BN3640
今の政治のメカニズムとして、政党が主たる争点を提示し、メディアが選挙戦を報じる以上、どうしても有権者の「本当のニーズ」から離れていってしまうことは本連載の前回記事で北海道知事選を例に説明しました。
一方、雇用の面については、非正規雇用問題を前回の解散総選挙で民主党が主たる争点に掲げて敗戦しましたが、高齢者にとって非正規雇用というのは、慣れ親しんだ職場を定年退職してからの嘱託であったり、まだ働ける体力がある中で自治体などで募集しているアルバイトであったり、かなりのシルバー雇用が含まれていることから、高齢者が増えた有権者全体でみれば「非正規雇用が120万人増えました」という争点が響くはずもありません。むしろ、「日本全体が労働者不足で定年退職後の老人が65万人も非正規雇用で雇われる好景気です」という話でしかないわけです。
なので、本来であればそういう非正規雇用や安定しない仕事の被害者は若者であるはずが、肝心のその若者の絶対数が少なくなり、加えて投票に行きませんので、争点に据えた政党が得票を伸ばせないのも自明であります。
公的セクターによって生活が支えられているという地方の現実
そんな高齢者の政治パワーが相対的に増大する中で、地方政治の真の問題というのは、地方の経済や社会を考える上で、その地方が何で食っているのかという点です。単純な話、重大な原発事故に見舞われ、地元の未来に失望した若年層が次々と流出し、残された高齢者が人口の大きな部分を占める福島県のような自治体がいくつもあります。高齢者率が40%を超えているであろう自治体の選挙では、いうまでもなく主要な争点は「社会保障・年金」になります。
翻って、そういう自治体の経済状態を把握するために、自治体の域内GDP、つまりその地域が何で食っているのかというのをダイジェストで調べてみると、圧倒的な割合が年金生活者に対して支払われる年金、次いで市役所に勤めている地方公務員、県警に勤務している警察官などの国家公務員等、公的セクターによって生活が支えられているという現実があります。
ということは、地方での経済活動が活力を失い低迷している状態で地方政治が選挙をしたところで、彼らの生活を安定せしめる政治的課題は、いかに中央から然るべき年金を支給してもらい、地元の高齢者の生活を維持するかになってきます。
地元でがんばって生きるというのはもちろん人間の選択であり、それは尊いものであるのは間違いないのですが、子育てが終わり、老人のみの世帯となった人々が社会に何かを還元しろというのも酷な話です。地方姥捨て論みたいなものも出てきそうですが、同じ日本人として、どうやって誇りを持った終(つい)を日本人に提示するかは、今後の政治の重大なテーマのひとつでしょう。
やはり、今後の地方統一選においては、このような社会環境を踏まえた議論をし、いかに痛みに耐えるか、一方で問題を先送りしないで、より良い状態で次の世代に日本社会を引き継いでいくのかを考える必要があるのではないでしょうか。
(文=山本一郎)