朝食抜き&空腹で健康・長寿に?「食べすぎ病」ががん・糖尿病・高血圧等の原因に
一般に、「1日3食ではないと体に悪い」「とくに朝食はしっかり食べる必要がある」などという指導がなされている。しかし今、40~74歳の男性の2人に1人がかかっている「メタボ」(メタボリック症候群)は、高脂血症、高血糖、高血圧(腹囲が85センチメートル以上の男性、または90センチメートル以上の女性)など「高」のつく、「食べすぎ病」である。
「メタボ」の該当者は将来、心臓発作(心筋梗塞)や脳卒中をはじめ、種々の生活習慣病を発症しやすく、医療費高騰の一大要因になるという。そのため国はその対策として、2008年4月1日からいわゆる「メタボ健診」をスタートさせた。
昔の日本人のように、日没とともに就寝し、日の出とともに起床して朝飯前の一仕事、例えば農作業などの肉体労働をした後で、ご飯に味噌汁、つけ物などの「粗食」をとることは、必要だったであろう。
しかし、現代人は、遅くまで仕事をし、それからお酒を飲みながら食事をするという人が多い。パーティや宴会などがあると、その後の二次会に参加して、またアルコールを口にし、仕上げにラーメンなどを食べて帰宅し、夜12時前後にやっと就寝するということも少なくないだろう。そして、翌朝6時前後に起床して出勤の準備をするわけだが、その時にはまだ胃袋に食物が残っていて、「朝食を食べたくない」という人も多い。
にもかかわらず「朝食はしっかり食べないと健康に悪い」という一般論に呪縛され、胃袋に無理して朝食を詰め込む人が少なくない。その結果、過食になり、高脂血症、高血糖(糖尿病)、痛風、高血圧、がんなどの生活習慣病で苦しむことになるのだから、笑止千万だ。
第二次世界大戦が終結した1945年のヨーロッパや日本では、食糧不足に陥り、多くの人が空腹を余儀なくされた結果、その年の生活習慣病の罹患率が、過去最低を記録したことは、統計が明確に表している。日本でも、「腹八分に病なし、腹十二分に医者足らず」という格言がある。
この40年間で、医師数は13万人から31万人に増加し、医療技術も格段に進歩した日本で、がん死者数は13万人から36万人に増加し、高血圧、高脂血症、糖尿病(予備軍を含む)、痛風に悩む人が、それぞれ約5000万人、3300万人、2200万人、100万人も存在する。その大きな要因のひとつが、「食べすぎ」にあるのは間違いない。
サーチュイン遺伝子
エジプトのピラミッドの墓碑銘に、英訳すると次のような文が書かれていたという。
「Man lives on 1/4 of what he eats, the other 3/4 lives on his doctor」
(人は食べる量の1/4で生きている。残りの3/4は医者が食べている)
エジプトの貴族たちの朝の挨拶は、「吐きますか、汗を出しますか」だった。つまり「食べすぎ」と「運動不足」の害を知っていたことになる。
エジプト文明にかぎらず、古代ローマ、古代ギリシャの文明は、その頂点を極めた後に衰退していった。その要因はいくつかあげられているが、その中の大きな要因として病気(ペスト、疱瘡、麻疹)の蔓延があげられる。
どんな病気でも、ある程度以上重症化すると、必ず「食欲不振」と「発熱」を伴う。「食欲不振」「発熱」により、免疫力を上げて病気を治そうとしているわけだ。よって、逆に「食べすぎ」「冷え」は、病気の二大要因になることがわかる。
「空腹」は、サーチュイン(長寿)遺伝子を活発化させ、健康長寿に導いてくれることを、米マサチューセッツ工科大学のL・ガランテ教授が2000年に発見している。空腹の時は、胃からグレリンというホルモンが分泌されて脳の海馬領域の血行をよくし、記憶力が増し、頭が冴えることもわかっている。
よって、「朝食を食べたくない人」は食べない、食べたい人でも「メタボ」など種々の病気で悩んでいる人は「食べない」で「空腹の時間をつくる」とよい。どうしても食べないと力が出ない人は、「紅茶に黒糖かハチミツを入れて飲む」「チョコレートをつまむ」などすることによって糖分を補うとよい。何しろ脳をはじめ人体を構成する60兆個の細胞の活動源は、ほぼ100%糖に依存しているのだから。
朝食を「食べない」「お茶(に梅干しを1個)」「ハチミツ又は黒糖入りの紅茶」などにしたことで、「半年で10キログラムやせた」「糖尿病がよくなった」「血圧が下がった」「酒に強くなった」などという喜びの声を寄せてくれた患者さんは多数いらっしゃる。
「やってみて調子がよい」ことを条件(前提)に、ぜひ1回試されるとよい。
(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)