54歳という若さで、胆管がんで亡くなられた女優の川島なお美さん。メディアはその死を悼むあまり、胆管がんの怖さを強調したうえで、専門医の「がんで助かるにはやはり早期発見しかない」というコメントを紹介している。
しかし、川島さんの場合は早期発見されたにもかかわらず、発見から約2年で亡くなられた。しかも、2013年8月に人間ドックでがんが発見された時点で、「余命1年」と宣告されていたという。これは、同じ所属事務所で川島さんとパティシエ・鎧塚俊彦さん夫妻と家族ぐるみで親しくしてきたタレントの山田邦子さんが、川島さんから聞いた話としてテレビ番組で話している。また、山田さんは手術まで半年を要したことに、「鎧塚さんは『悔やまれる。早く行けばよかった』と言っていた」とも語っている。
自覚症状がなく、健診で発見されその時点で余命宣告され、手術までに半年。医者の視点から言わせていただくと、どこか不自然である。余命1年と宣告した医師は、なにをもってそう言ったのだろうか。
腹腔鏡手術への疑問
検診で発見されたということは、がんの状況はまだそれほどでもなかったはずである。そうでなければ、約半年後の14年1月に手術を腹腔鏡で行ったことの説明がつかない。
腹腔鏡手術は開腹手術に比べたら難易度が高いうえ、医師の腕によって大きな差が出る。しかもできるのはがんの部位切除が中心で、たとえば肝臓を全摘するなどということはできない。だから、腹腔鏡を選択したということは、がんの状況は肝臓転移がなく、周囲のリンパ節へも浸潤しておらず、まして腹膜播種がなかった、つまりお腹の中に広がっていなかったと考えられる。
ところが報道によれば、川島さんの場合は、肝臓の外の胆管にできた肝外胆管がんではなく、肝臓内の細い胆管にできた肝内胆管がんだった。肝内胆管がんの腹腔鏡手術は、胆管がんのなかでも肝門部胆管がんに次いで難しいといわれる。
先ごろ、群馬大学や千葉県がんセンターで胆管がんの腹腔鏡手術を受けた患者が次々に死亡したケースが事件になったが、その多くは肝門部胆管がんの腹腔鏡手術だった。
健診でがんが発見されることは、いいことなのか
川島さんがブログに綴ったところによると、川島さんは手術後、抗がん剤や放射線による治療を一切受けず、以下の「民間療法」を取り入れていたという。
(1)ビタミンC濃縮点滴などによる「免疫力増進療法」
(2)電磁波などにより邪気を取り除く「電磁波療法」
(3)発酵玄米や豆乳ヨーグルトといった食事を摂る「食事療法」
しかも手術を受ける前から、こうした民間療法を実施していたともいう。
肝内胆管がんは、もともと術後5年生存率が30~50%とされる難治性のがんだが、手術を受けた後も長生きした人もいるし、受けずに長生きした人もいる。
ここからは一般論だが、手術が最善の方法とはいえないのである。自覚症状がないなら、たとえがんが発生したとはいっても、そのがんは体に対して悪さをしていなかったからだ。通常、胆管がんは黄疸が出て初めて発見される。
実際、手術後の川島さんの状態はよくなかった。激ヤセが話題になるほど食欲も落ち、栄養失調状態に陥っていたようだ。これは「悪液質」といって、がんの進行によって引き起こされる衰弱である。悪液質が始まると、脂肪組織や筋肉の萎縮が進み、体中のエネルギーが消失していく。
がんがあろうとなかろうと、人間は生きていくためには1日最低限1400キロカロリーの摂取が必要だ。これ以下だと、普通の生活ができなくなる。推測だが、川島さんはこうして最期のときまでを苦しみ抜いて亡くなられた。
人間ドックのような健診でがんが発見されることが、果たしていいことなのだろうか。がんの種類によっても異なるが、がんの摘出手術が有効という確かなデータもない。
あくまで「イフ」だが、健診によってがんが発見されず、発見されても症状がなかったのだから、手術を受けないという選択もあった。そうすれば、川島さんはもっと長生きできていたかもしれない。このような視点で「がん死」を捉えることも必要ではないだろうか。
(文=富家孝/医師、イー・ドクター代表取締役)