うつ病の予防法について、国立精神神経・医療研究センターの西大輔医師のナビゲートで紹介する連載。今回は栄養の側面から解説する。
魚の消費量が多い国ほど「うつ病」が少ない
「1998年に、アメリカのヒベルンという医師が発表した研究によって、魚の消費量が多い国ほどうつ病の有病率が少ないことが示されました。それ以来、『オメガ3系脂肪酸』とうつ病の関係が注目されています」(西医師)
オメガ3系脂肪酸とは、魚に多く含まれる「EPA(エイコサペンタエン酸)」と「DHA(ドコサヘキサエン酸)」、さらにエゴマ油などに含まれる「アルファリノレン酸」などの総称。つまり脂質、アブラだ。
これらは魚に多く含まれることから、「魚油」とも呼ばれる。この魚油が、うつ病の予防に役立つかもしれないことが、近年の研究で明らかになっているという。
反対に、うつ病の予防のために控えたほうがいいのが「オメガ6系脂肪酸」だ。これは大豆油、コーン油、紅花油などに含まれ、揚げ物や加工食品などから過剰に摂取しがち。過剰に摂取するとオメガ3系脂肪酸とのバランスが崩れてしまうという。
「オメガ6系脂肪酸は、本来は人間の身体にとって必要な物質ですが、現代の食生活では、どうしても取り過ぎてしまいます。なるべく加工食品を控え、サバ、アジ、イワシなどの青魚や、ブリ、イカ、サケなどで魚油を摂取するといいですね」
どんな食事が今の“気分”をつくったか?
とはいっても、特に男性の一人暮らしでは、普段から栄養にまで気を配るのが難しい場合もあるだろう。そんな人に向けて、西医師は食生活のセルフモニタリングを提案する。
「魚を食べて揚げ物を控えるのはいいことですが、ときどき唐揚げを食べるくらい構いません。魚を食べることにこだわりすぎるのではなく、食事と気分の関係を<セルフモニタリング>することが大切です。
食べたものの栄養素だけではなく、<食べた量><食べる速さ><お酒の飲み方>などを振り返ってみるのです。たとえば、お腹が減っていないのに、イライラや不安を紛らわせるためにたくさん食べて満足感を得るというパターンを持っている人は比較的多いです。
食事がどのように気分に影響しているかに目を向けていくと、自分にとっての<いい食生活>が経験からわかるようになるでしょう。理想的なのは、<カラダがいま何を求めているか>を自然に感じとって食事できる生活ですね」
本当にカラダが必要としている栄養素、食事に気づく感覚を取り戻していくことが、うつの予防にもつながっていくのだ。
(取材・文=里中高志)
西大輔(にし・だいすけ)
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神保健計画研究部システム開発研究室長。2000年、九州大学医学部卒。国立病院機構災害医療センター精神科科長を経て2012年より現職。2016年より東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻精神保健政策学分野連携講座准教授を併任。著書に『うつ病にならない鉄則』(マガジンハウス)がある。専門:精神保健学、うつ病・PTSDの予防、栄養精神医学、産業精神保健、レジリエンス。
里中高志(さとなか・たかし)
精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。