4月14日に日本眼科学会などが連名で発表した「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」が波紋を広げている。「パソコンやスマホから出る有害な“ブルーライト”をカットできる」との商品惹句のもと大手眼鏡量販店などが以前より販売してきた「ブルーライトカット眼鏡」に対し、医療の側から物言いが投じられたわけである。
そもそも「ブルーライトカット眼鏡」とは、人間が見ることのできる可視光線のなかで、もっとも波長が短く強いエネルギーを持つ青い光(ブルーライト)をカットする機能を持つレンズを使用した眼鏡を指す。ブルーライトは、目の中にある角膜や水晶体で吸収されることなく網膜に到達することから、他の光よりも目にダメージを与えやすいとされているほか、このブルーライトを夜間に多く浴びることで体内時計が乱れてしまうおそれがあるとも。
パソコンやスマホの液晶画面からもこの光が多く発せされることが知られており、パソコン画面を長時間見つめて仕事をせざるを得ない多くのビジネスパーソンを中心に、「眼病予防や眼精疲労を軽減できるアイテム」として人気を集めていた。
しかし4月14日、日本眼科学会や日本眼科医会など眼科系の6医療団体は共同で、「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」との声明を発表。小児にブルーライトカット眼鏡を装用させることを推奨する動きについて、「我々は以下の科学的観点からそれを危惧するものであります」との懸念を表明したのだ。夜間の着用により体内時計が乱れにくくなる点については一定の効果を認めつつも、眼精疲労の軽減や眼球への障害を予防するという効果については、疑問を呈したのである。
●「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」
https://www.jasa-web.jp/wp/wp-content/uploads/210414_bluelight.pdf
「ブルーライトカット眼鏡に眼精疲労を軽減する効果はまったくない」との報告も
この声明では、パソコンやスマホなどのデジタル端末から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも少量のため、網膜に障害を生じることはないレベルであることを説明。また、小児にとって太陽光は心身の発育に必要なものであり、十分に浴びなかった場合むしろ近視が進行するリスクが高まることから、ブルーライトがもたらすリスクよりも、それをカットするリスクのほうが大きくなる可能性を指摘した。
さらに、アメリカの科学誌「AMERICAN JOURNAL OF OPTHALMOLOGY」掲載の研究結果では、ブルーライトカット眼鏡に眼精疲労を軽減する効果はまったくないと報告されていることも紹介。「小児にブルーライトカット眼鏡の装用を推奨する根拠はなく、むしろブルーライトカット眼鏡装用は発育に悪影響を与えかねません」との警鐘を鳴らしたのである。
「何かしらの効能はある」「以前から効果は感じられなかった」とSNSでも賛否両論
この件についてはさっそくいくつかのメディアが報じるとともに、SNSでも大きな話題に。眼鏡店経営者だというあるTwitterアカウントはこの声明を取り上げ、「販売業者は過度な広告を控えましょう」と呼びかけるなどした結果、4月16日時点で約3万9000件のリツイート、約6万9000件の「いいね」を獲得。
Twitter上ではその他、「明らかに疲労感が違うし何かしらの効果はあると思う」などと声明について異を唱える声や、「いわれてみれば眼精疲労が治った感じはしなかった」などと納得する声、「ブルーライトも都市伝説なら、おれたちは何を信じればいいんだ」などと困惑する声などが飛び交っている模様だ。
Zoffは「“必要以上に着用する”ことが問題ではないか」との認識が垣間見えるコメント
ではこの声明「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」について、実際にブルーライトカット眼鏡を販売している眼鏡量販店サイドはどう受け止めているのだろうか?
今回声明で指摘された小児用眼鏡を含めブルーライトカット眼鏡を扱っている眼鏡量販店として、Zoffを展開する株式会社インターメスティック、JINSを展開する株式会社ジンズホールディングスに、今回の声明についての見解を聞いてみた。
Zoffを展開するインターメスティックは、「小児にとって太陽光が心身の発育に欠かせないものであるという研究結果は弊社も承知しておりました」とした上で、「今回のブルーライトカット眼鏡に関する発表は、小児に対して必要以上の状況においてブルーライトカットを推奨することに対する意見と認識しております」とコメントし、あくまでも“必要以上に着用する”ことが問題ではないかと受け取れる見解を表明。
加えて、「夜間や就寝前にブルーライトをカットすることには、一定の効果が見込まれるという見解もございます」と、声明で言及された体内時計への好影響を取り上げつつも、「今回の発表を受け、より一層正しい情報の提供と、適切な推奨を行えるように努めてまいります」とした。
JINSは「専門医の処方をお勧めすることや、使用方法についてより啓発していきたい」
JINSを展開するジンズホールディングスからは、「今回の件を踏まえ、今まで以上にお客様にあわせた丁寧な接客を心がけるとともに、特にお子さまに対しましては、専門医の処方をお勧めすることや、使用方法についてより啓発していきながら、社会に役立つ企業として精進してまいります」とのシンプルな回答が得られた。
両社ともに、あくまでも選択肢のひとつとして、小児用を含め今後もブルーライトカット眼鏡の販売を継続していく意向のようだ。
6団体による今回の声明をもって、ブルーライトカット眼鏡の効能が全否定されたというわけではない。しかし眼鏡が、目という非常にセンシティブな身体器官を補助するための道具である以上、それを販売する企業側にとっても、最新の医療的知見をふまえた適切な製造・販売姿勢が常に求められることはいうまでもないだろう。
(文=編集部)