アベノミクスで年間雇用者報酬2兆円増、家計の金融資産170兆円増という真実
さらに円安の恩恵は、株高などを通じて家計の金融資産の増加にも結びついていることが明確に表れている。実際、日銀の資金循環統計によれば、円安が進む前の2012年9月末から昨年末までに180兆円以上増加している。
その関係を定量化すれば、過去10年間のドル円レートと家計の金融資産の関係から、ドル円レートが10円円安になると、家計の金融資産が43兆円増えることになる。これは、アベノミクスで40円以上円安が進んだことにより、家計の金融資産が170兆円以上増えたことを示唆する。
必要となる再分配強化の政策
従って、日本経済全体でみれば、円安ドル高になるほど国内の所得や税収が増えるため、円安自体は良いことである。過去を振り返っても、ドル高の局面では日本株が上昇しやすい傾向にある。
しかし、急激な円安は、短期的に家計や中小企業への負担増をもたらす。このため、求められる対応としては、自然な円安は受け入れる一方で、エネルギーコストを下げる取り組みや、家計や中小企業への再分配を強化する政策が必要である。
具体的には、天然ガスのジャパンプレミアム解消や、トリガー条項発動をはじめとした燃料費に対する減税等が選択肢として考えられる。というのも、家計のエネルギー消費割合を地域別にみると、北海道や東北をはじめとした地方はガソリンや光熱費の比率が高く、逆に関東や近畿といった都市部ではその割合は圧倒的に低い。
従って、エネルギーの減税は、短期的な地方経済活性化策として検討に値しよう。一方で、公共事業の地方経済活性化効果が人手不足等により減退していることも勘案すれば、他の歳出入策とのセットで効果等含めて検討すべきだろう。
また、中小企業への事務負担が高まるなどの多くの問題を抱える軽減税率については、導入を再考し、その財源を用いてエネルギーに上乗せされ続けている旧暫定税率分の一部を減税することも効果的だろう。これにより、上場企業から中小企業、ひいては都市部の経済から地方経済への所得移転が生じれば、アベノミクスの効果の波及が広がりやすくなるといえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)