カネで口うるさい連中を黙らせるのは正しい、という考え方はお金持ちになるために大切である
『お金持ちになる習慣 「生きたお金の使い方」が身につく本』(清流出版/加谷珪一・著)
世の中に「お金持ち本」は数多いが、本書には「典型的日本人」であるAさん(男性)とB子さん(女性)が何度も登場し、読者にとって身近な「お金の貯め方」について著者が解説する体裁をとっている。ほかにも「女性社長」(成功者の象徴)や、「Aさんの友人」(何かとうまくやる人)が登場し、この人たちのお金にまつわる成功ストーリーに触れ、AさんもB子さんも「私はこれでいいのだろうか」と悩むのだ。
「Aさんの友人」がマンションを買ったと聞くと、Aさんは「やはり身近な人がマンションを買うのを見ると、心が少しざわつきます。ただ、マンションの金額やローンの期間などを聞くと、げんなりしてしまうのも事実です」という状態になる。このような小市民的ケーススタディが続くのだ。
ほかにも、「おごるべきかおごらないべきか」「賃貸住宅と分譲住宅どちらがいいか?」といった二元論も多数登場し、お金の使い方、貯め方について本書は判断材料を与えてくれる。
著者はそれなりにお金を持っている人物ではあろうが、もしかしたら相当な常識人なのでは、という読み解き方を私はした。例えば、ある時著者は結婚式の二次会幹事を担当したのだが、会費を経費よりも安くし、差額は自腹を切ったのだという。その理由は以下の通りである。
「参加者の中に、確実に会費が高いとイチャモンをつける人がいることがわかっていたからです。そのような人と論争するのはまったくの時間のムダでしかありません。かといって、その人が満足できるような価格の店にしてしまっては、全体のクオリティが落ちてしまいます」
恐らくは、具体的に誰がそのイチャモンをつける人なのかは念頭に置かれていたのだろう。こうして、余計な波風を立てることなく、「一部の口うるさいヤツを黙らすには多少のカネをかけてでも自分が損すれば、大局的に見ればトクする」と考えたのだ。ここで「カネで解決しやがって……。オレは自分の懐を痛めたくない」と思うもよし、「幹事として円滑に進めること、一生モノの結婚式二次会で参加者も新郎新婦も満足させるのであれば、カネは多少かかっても仕方ない。長い目で見ればその方がトクする」と思うもよしである。
「女にはデートでおごるべきかどうか?」論争の答えはない
お金に対する考え方というのは、宗教のような面も時にある。ひとつが「女にはデートでおごるべきかどうか?」という話だ。これは、インターネット上のコラム等でも飽きることなくこの15年ほど時に噴出しては、ああだこうだ言い合うもの。「2ちゃんねる」上では男性が「そんなゴーマンブス、払い下げだ!」とたぎり、金持ち風な男性がFacebook上では「それくらいいいじゃんw」と余裕をブチかまし、恋愛カウンセラーみたいな女性が「女性のほうがデートの身なりに気を使うので、そのくらいはせめて出してほしい」と述べたりもする。
挙句の果てには「その程度の甲斐性さえない男は将来性もない無能」と述べる、意識の高い自信満々女性(SNSのアイコンは当然プロによって撮影されている)による高飛車発言まで登場する。たかが「デートで女におごるべきか」というカネに対する考え方だけで、人間性までもが評価されてしまうのである。
となれば、どちらが正しいのか答えは出ず、各人が信じるものを信じておけばよい。
「座りション」問題とは「宗教」問題である
一方、それだけでは済まない問題もある。例えば、家庭では「座りション」問題が男女間に存在する。男性が小便をするにあたり、便座を上げたまま立って用を足すか、大便をする時と同様に座ってやるかという問題である。掃除をする妻の側からすると「便座にも床にも滴が飛び散って汚い」と考え、男性は「昔からこのスタイルに慣れていた」や「男の沽券にかかわる」といった「宗教」的理由で反対する。
これについては「汚い」という実害があるわけで、「宗教」の問題は妻としては捨てておいてもらいたいところだろう。だが、男は「宗教」の問題と捉える。この場合は懇切丁寧に「いかに掃除が大変か」や、便器のメーカーが実験した「小便を立ってした場合の滴の数」といったデータで「改宗」させることが可能だ。というのも、女性の側は宗教問題に持ちこんでいないから、その面での争いにはならないからだ。宗教問題になると、もう解決はしない。どちらかが実利だけを述べることにより、着地点は見出すことができる。
私自身、こうしたお金に関する本をもってして「宗教」的なものを変えられるとは思っていない。だから、本書が合う人、合わない人両方が出てくることは間違いない。だからこそ、本書については「常識人・小市民的な人にはしっくりくる派」といった分類をしてみよう。
むやみに「年収10倍!」を煽ったり、「これであなたも不労所得!」など勢いのあることも言わない。AさんやB子さんみたいな人が読むと、役に立つ書といえるだろう。
(文=中川淳一郎/編集者)