生命保険は死亡のリスクに備えるだけではありません。入院の際の医療費に備える医療保険や、老後の生活費に備える個人年金も生命保険の商品です。最近では「働けないリスク」に備える保険への関心が高まっています。「就業不能保険」です。
療養期間中の収入減に備える
生命保険といえば、以前は一家の大黒柱であるご主人が亡くなった場合に遺族が困らないように備える死亡保険が中心でした。しかし、医療技術の向上もあり、現役時代に亡くなる可能性が低下してきました。例えば、かつて、がんは不治の病で本人に告知をしないのが一般的でしたが、今では重篤な病気ではあるものの、完治する可能性が向上し、本人にも告知されるようになりました。
病気での死亡のリスクは減りましたが、今度は治療のための医療費とその後の生活費が心配になりました。そして加入者が増えていったのが医療保険です。多くの医療保険は、入院の期間に応じて給付金が出ますので、医療費と病気で働けないことによる収入減に備えることができました。
ところが、最近では入院期間が短くなる傾向があります。がんといえども平均の入院期間は17.1日となっています。国の指導もあり、最近では早期に退院して、通院で治療を継続することが増えてきているのです。退院したからといって必ずしもすぐに職場復帰できるわけではなく、その後に自宅療養が続くこともあります。入院した日数に応じて給付金が出る医療保険では受け取る給付金額が少なくなり、療養中の収入減を賄うことができません。
そこで、病気やケガで働けない場合に給付金が出る就業不能保険が注目されています。就業不能保険の特徴は、自宅療養でも仕事ができない場合には、事前に決めてある給付金が出る、ということです。これで療養期間中の収入減に備えることができます。
販売が難しい就業不能保険
そうすると、「本当は病気でもないのに給付金を受け取る人がいるのではないか」と心配になります。実際、不正受給のリスク(「モラルリスク」と言います)を考えると、保険会社の立場では販売するのが怖い保険商品で、扱っている保険会社はそれほど多くはありません。最近でこそ、取り扱いが増えてきましたが、それでも死亡保険や医療保険などの保険にプラスアルファで付け加える「特約」としての扱いが中心で、単体での販売はごくわずかです。商品によって詳細は異なりますが、「働けない」ことの確認として、医師の診断書を提出することなどを条件としているのが一般的です。
損害保険会社で扱っている「所得補償保険」もほぼ同じものと思ってよいでしょう。やはり病気やケガで働けない場合に給付金が出ます。似たような名称に「収入保障保険」というものもありますが、こちらはまったく違う保険ですので、注意してください。「収入保障保険」は、保険の加入者が死亡した場合に、年金形式で保険金が出る保険で、死亡保険の一種です。
心の病にも備えを
ところで、この就業保障保険は先に述べましたように、病気やケガで働けない期間に一定の給付金が出る保険です。ただ、病気のうち、精神疾患を対象外としているものが多くなっています。
実は“働けない”という面では、身体的な病気やケガ以上にリスクが高いのが心の病です。心の病というと、自分には関係ないと考えてしまう人もいるのですが、縁遠い病気ではありません。厚生労働省の「患者調査」(平成29年)によると、心の病と言える統合失調症等と気分障害の患者数は合計で206.8万人と、ガン(悪性新生物)の178.2万人よりも多くなっています。「うつは心の風邪」という言葉もありますが、誰にでもかかりうる病気です。
心の病は、治療をしても短期で回復するとは限りません。それだけに病気になった場合に収入が減少する期間が長くなり、家計が窮する可能性が高いと言えます。こういう病気こそ、収入減を補う備えがあると安心です。最近注目される就業不能保険ですが、精神疾患を対象にしているかもチェックして選びたいものです。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)