生命保険に入っていると、税金の負担が軽くなる?
亮子「そろそろ生命保険を見直さないといけないな」
啓子「生命保険も常に色々な商品が開発されていますよね」
亮子「生命保険を見直すことで、家計が改善できることも多々あるし。そもそも生命保険が必要なのかどうか、という点から考えることも大切」
啓子「そして生命保険の契約をした場合には、確定申告や年末調整で、生命保険料控除の手続きをすることが大切です」
亮子「その際、平成24年より前に契約したものとそれ以降のものとでは計算方法が異なるから、注意が必要だね」
啓子「はい。節税効果と合わせて、計算してみたいと思います」
生命保険料控除とは
生命保険の契約をし、保険料を支払った場合、支払った保険料のうち一定額まで、所得から控除することができます。保険といってもいろいろな種類の保険がありますので、まずはどの保険が対象となるのかを整理しておきます。生命保険料控除の対象となる保険料は以下の3つです。
(1)一般生命保険料
(2)個人年金保険料
(3)介護医療保険料
(1)一般生命保険料
民間の生命保険会社と契約した生命保険契約や農協、生協などで契約した生命共済など、一般的な生命保険契約のことです。
(2)個人年金保険料
個人年金保険料控除が受けられる保険契約は、一般の生命保険料控除と別枠で控除を受けることができます。個人年金保険料控除が受けられる保険契約の要件は次の通りです(この要件を満たさない個人年金保険は生命保険料控除の対象外となります)。
・年金受取人が契約者(=保険料の払い込みをする者)または配偶者のどちらかであること
たとえば、契約者が夫で年金の受取人が妻の場合はこの要件を満たします。
・年金受取人=被保険者であること
たとえば、保障の対象となる被保険者が年金の受取人の場合はこの要件を満たします。
・保険料の払込期間が10年以上であること
たとえば、45歳の方が60歳まで保険料を支払うプランを契約した場合は、払込期間が15年となるため、払込期間10年以上の要件を満たします。
・確定年金、有期年金の場合、年金受給開始日の被保険者の年齢が満60歳以上、かつ、年金受給期間が10年以上であること
たとえば、60歳から10年以上にわたって年金を受け取る契約であればこの要件を満たします。
(3)介護医療保険料
医療費に対する保険や、がん保険、介護保障保険など、入院や通院に伴う給付にかかわる保険などを指します。
なお、自動車保険や火災保険といった、いわゆる損害保険料は生命保険料控除の計算対象とならず、損害保険料を所得から控除する制度もありません。ただし、地震保険は別途所得控除の制度があり、長期の損害保険は契約時期によっては控除が使えるケースもあります。これについては次回触れていきます。
所得控除の計算方法
所得から控除できる生命保険料には一定の限度があります。その計算方法は保険の契約時期によって異なります。具体的には、
(A)平成24年1月以後の契約(新契約)のみの場合
(B)平成23年12月以前の契約(旧契約)のみの場合
(C)両者に加入している場合
に分けて考える必要があります。
※新契約の平成24年1月から介護医療保険料の控除が新設されています。生命保険料控除の限度額が下がりますが、介護保険料控除が新設されたことにより、控除の範囲が広がりました。改正に伴って計算方法も新旧契約で異なりますので注意してください。
※下記の表の中の「支払保険料等」とは、その年に支払った金額から、その年に受けた剰余金や割戻金を差し引いた残りの金額をいいます。
(A)新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約の場合)
新生命保険料、介護医療保険料、新個人年金保険料の控除額は次表のように計算します。
(B)旧契約(平成23年12月31日以前に締結した保険契約の場合)
旧生命保険料と旧個人年金保険料の控除額は次表のように計算します。
(C)新契約と旧契約の両方に加入している場合
・新契約のみ生命保険料控除を適用 →(A)の計算方法で算定した控除額
・旧契約のみ生命保険料控除を適用 →(B)の計算方法で算定した控除額
・新契約と旧契約の双方について生命保険料控除を適用 →(A)と(B)の合計額(控除の上限額は4万円)
いずれかのうち一番控除額が大きい計算方法を選ぶことができます。
(A)~(C)に従って各分類の保険料控除額を算出したら、控除額を合算します。控除額は総額で上限12万円です。
<2>生命保険料控除と所得税への影響額以下の保険料を支払っている山田さん(仮名)の生命保険料控除と所得税への影響を計算してみます。
・生命保険料 :新契約30,000円、旧契約70,000円
・個人年金保険料:新契約80,000円、旧契約40,000円
・介護医療保険料:新契約80,000円
(1)生命保険料
(A)新契約 30,000円 × 1/2 + 10,000円 = 25,000円 < 上限40,000円 → 25,000円
(B)旧契約 70,000円 × 1/4 + 25,000円 = 42,500円 < 上限50,000円 → 42,500円
(C)新契約(A)+ 旧契約(B)= 67,500円 > 上限40,000円 → 40,000円
山田さんは新旧の契約があるため、(A)~(C)で一番控除額が大きい計算方法を選ぶことができます。
今回の場合、最も控除額が大きいのは(B)の42,500円です。
(2)個人年金保険料
(A)新契約 80,000円 × 1/4 + 20,000円 = 40,000円 = 上限40,000円 → 40,000円
(B)旧契約 40,000円 × 1/2 + 12,500円 = 32,500円 < 上限50,000円 → 32,500円
(C)新契約(A)+ 旧契約(B)= 72,500円 > 上限40,000円 → 40,000円
今回の場合、最も控除額が大きいのは(A)又は(C)で、40,000円となります。
(3)介護医療保険料
80,000円 × 1/4 + 20,000円 = 40,000円
介護医療保険は新契約のため、控除額は40,000円(上限40,000円)となります。
(4)生命保険料控除と所得税への影響
一般の生命保険料控除額と個人年金保険料の控除額、介護保険料の控除額を合計すると、
42,500円+40,000円+40,000円=122,500円
となります。生命保険料控除額の合計の上限は 120,000円のため、控除額は120,000円です。
・今回の合計額 122,500円 > 限度額 120,000円
山田さんの今回受けることができる生命保険料控除の金額は120,000円となります。仮に山田さんの所得税率を20%とした場合、120,000円×20%=24,000円分 所得税が少なくなります。
生命保険料控除と住民税への影響額
住民税についても、所得税と同様に生命保険料控除の制度があります。基本的な計算方法は所得税と同じですが、控除額が小さくなります。
(A)新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約の場合)
(B)旧契約(平成23年12月31日以前に締結した保険契約の場合)
なお、新契約と旧契約がある場合の取扱いは所得税と同じです。また、各控除額を合計し最終的に控除できる額の上限は70,000円です。
さきほどの山田さんの住民税の生命保険料控除額を計算すると以下のようになります。
(1)生命保険料
(A)新契約 30,000円 × 1/2 + 6,000円 = 21,000円 < 上限28,000円 → 21,000円
(B)旧契約 70,000円 × 1/4 + 17,500円 = 35,000円 < 上限35,000円 → 35,000円
(C)新契約(A)+ 旧契約(B)= 56,000円 > 上限28,000円 → 28,000円
山田さんは新旧の契約があるため、(A)~(C)で一番控除額が大きい計算方法を選ぶことができます。
最も控除額が大きいのは(B)の35,000円です。
(2)個人年金保険料
(A)新契約 80,000円…56,000円超であるため28,000円
(B)旧契約 40,000円 × 1/2 + 7,500円 = 27,500円 < 上限35,000円 → 27,500円
(C)新契約(A)+ 旧契約(B)= 55,500円 > 上限28,000円 → 28,000円
最も控除額が大きいのは(A)又は(C)で、28,000円となります。
(3)介護医療保険料
80,000円…56,000円超であるため28,000円
介護医療保険は新契約のため、控除額は28,000円(上限28,000円)となります。
(4)生命保険料控除と所得税への影響
一般の生命保険料控除額と個人年金保険料の控除額、介護保険料の控除額を合計すると、35,000円+28,000円+28,000円=91,000円となります。住民税の生命保険料控除額の合計上限は 70,000円のため、控除額は70,000円です。
今回の合計額 91,000円 > 限度額 70,000円
山田さんの今回受けることができる住民税の生命保険料控除の金額は70,000円となりました。
住民税の所得割は一律10%なので、70,000円×10%=7,000円分、税金が安くなるということです。
今回の山田さんのケースでは、所得税と住民税の所得控除による節税効果は合計で31,000円(24,000円+7,000円)となります。
有利な額を選択しましょう
平成24年より前の契約と平成24年以降の契約では、生命保険料控除の計算方法が異なります。そして、一番有利な額で税金の計算をすることが可能です。複数の契約をしている場合には、ぜひ、一番有利な方法で計算していたかどうか、見直してみてください。また、それぞれの保険料の控除額の枠を最大に利用できるよう、各保険の保険料や内容のバランスを考えてみることもお勧めします。
なお、生命保険料控除は、保険料を支払っている人の所得から控除できる制度です。家族それぞれに所得がある場合には、保険料の支払いを分担すれば、それぞれの生命保険料控除を最大限利用することも可能です。
亮子「必要な保険の内容も、年齢や家族構成によって異なりますから、定期的に見直すことが大切だね」
啓子「不要な保険には入らない。必要な保険を見極めて、生命保険料控除を利用する」
亮子「それにしても、平成24年の前後で計算方法が異なるのは複雑だね。もしも、過去に有利な選択をしていないことに気づいたら、その分は取り戻すことはできるの?」
啓子「はい、可能です。次回、その点も含めて、生命保険料控除について補足していきますね」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)