昨年・台風19号で浸水した多摩川周囲、「旧河道」だった…水害・地震に弱く宅地に不適
土地や家を買うとき、「水害リスク」考えてますか?
「土地を購入するつもりだけど、水害が心配なんだよね。購入するとき、不動産業者から水害リスクの説明ってあるのかな?」
友人から、こんな質問を受けたことがあります。以前であれば、「よっぽど親切な不動産業者であれば別だけど、水害リスクに関する説明は、たぶんないよ」と、答えていました。もし今、同じ質問を受けるとすれば、答えは、「説明はあるはず、水害リスクの説明義務があるからね」と言います。
2020年8月28日より、取引対象物件の所在地について「水害ハザードマップにおける水害リスク」の説明をすることが義務化されました。これは、近年の大規模水災害の頻発で、不動産取引においても、水害リスクの情報が重要な要素となっていることの証ですね。
19年の台風19号では、人口が密集する東京・神奈川の多摩川周辺が氾濫したのを覚えていますか? オシャレな街、二子玉川駅周辺は泥水に浸かり、再開発によってタワーマンションの街に変貌した武蔵小杉にも、浸水被害が出ました。47階建てのタワーマンションでは、浸水被害から、断水、停電、トイレもエレベーターも使えないという状態が、1週間以上も続きました。
これらは、多摩川の堤防が決壊したわけではく、支流の氾濫と排水しきれない水の氾濫による浸水でした。最新の都市での“まさかの浸水被害”でした。多摩川周辺は、自然豊かで都心にも近く、子育てするにもいい、魅力的な環境です。しかし、そこには思わぬ落とし穴が潜んでいました。
ハザードマップを見ると、多摩川の周囲は、想定される浸水が2階の天井まで届く5メートル超えの赤い色で埋め尽くされています(自治体によっては青色の濃さで浸水の深さを示す場合もあります)。その真っ赤な地域ほど、新築マンションや戸建てが多くなっています。
ハザードマップで示す赤い地域は、昔は畑が広がり、河が氾濫する場所として、地元の人は家を建てない場所でした。時代は移り、多摩川は整備され、昔の洪水の記憶も薄れていきました。経済発展に伴い、首都圏へ通う人々のベッドタウンとして、注目されるのには時間がかかりませんでした。
ハザードマップだけではわからない、土地のリスク
そして、注意すべき点がもうひとつあります。台風19号で浸水した地域(多摩川周辺)のほとんどに、かつての河が流れていたことを示す「旧河道」と呼ばれる地形が含まれていたことがわかりました。
「旧河道」とは、昔河川だった場所で、現在は流路が変わって水が流れなくなった場所です。 そのため、旧河道では周囲の土地よりも低い帯状の地形になっています。泥土が堆積しており、水害や地震に対しては弱く、かつては宅地には適していないとされていました。
ちなみに旧河道は、ハザードマップには表示されていません。ですから、「水害ハザードマップにおける取引対象物件の所在地について説明」には含まれません。
旧河道を調べるには、「国土地理院ホームページ」から「地理院地図ヘルプ」→「地理院地図の使い方」→「地理院地図で見ることのできる地図や写真一覧」→「土地の成り立ち・土地利用」→「治水地形分類図」と見ていきます。ここで国が管理している一級河川の旧河道が閲覧できます。その他の「土地の成り立ち」を調べるなら、公立図書館で古地図などを閲覧すると良いでしょう。
最新のハザードマップは、お住まいの自治体のホームページから閲覧、ダウンロードができます。台風が近づくなどしたときは、アクセスが集中して閲覧できない状況になる恐れがあります。平常時にプリントアウトしておきましょう。
これから土地を買う人は、「最新のハザードマップ」や「土地の成り立ち」に注目し、自分自身で調べることが大切です。すでにお住まいの方は、いち早い避難や浸水対策に役立てましょう。豪雨災害では「旧河道の土地は、浸水被害が一番にくる」と考えてください。
(文=草野かおる/イラストレーター・防災士)
不動産取引時において、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明を義務化
~宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令の公布等について~