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木下隆之「クルマ激辛定食」

メルセデス史上初のEV「EQC」、なぜ「GLC」を流用?テスラと対照的な戦略の狙い

文=木下隆之/レーシングドライバー

メルセデス史上初のEV「EQC」、なぜ「GLC」を流用?テスラと対照的な戦略の狙いの画像1

 

EQC」は独メルセデス・ベンツ史上、記念すべき初のEV(電気自動車)である。

 となれば、膨大な予算が計上されたであろうことは明らかだ。1886年、世界初のエンジン付き自動車を開発したのはメルセデスだった。そのメルセデスが、130年以上が経過した今、新たな時代の創造としてEVの開発に挑んだのだから、注目しないわけにはいかない。

 とはいうものの、「記念すべきメルセデス初の」という冠が付くEVなのに、意外に肩の力が抜けている。専用プラットフォームを開発したわけではなく、ベースはガソリンエンジン車である「GLC」だという。フロントにエンジンを搭載するミドルサイズのSUV(スポーツ用多目的車)のプラットフォームを拝借し、EV仕様に衣替えしたのである。

 さすがに、フロントマスクをはじめとした意匠は新鮮味がある。これからのメルセデスEVのアイコンが散りばめられている。インテリアの造形も特徴的だ。だが、フォルムはGLCのそれであり、操作系の数々も慣れ親しんだガソリンGLCと大差ないのだ。

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 専用設計としなかった理由がコストであろうことは明らかだ。新たにEV専用のプラットフォームを開発するには多額の投資が課せられる。だがGLCの流用ならば、圧倒的に価格での優位性が得られる。EV人気の高まりを肌では感じていながらも、現実的な普及率はまだまだ低い。そこに多額の投資をするリスクを嫌った。まずは台数を確保してから、というのがメルセデスの手法なのだ。

 GLCのフォルムを流用するメリットは、もうひとつある。ガソリンからの乗り換えユーザーにとって、違和感のない使い心地が得られるのだ。テスラ「モデル3」や日産自動車「リーフ」のようなEV専用車は、慣れるまでには時間を要する。

 だがEQCは、GLCの派生系ともいえるから、乗り込んで発進するまでに戸惑いがない。コクピットには、いつもの見慣れた光景が広がる。イグニッションスイッチに手をかけ、セレクターレバーで「D」レンジを選択し、アクセルを踏み込むといった一連の操作は同様なのだ。

 実際に走り始めても、走りに違和感は少ない。テスラはこれ見よがしにスタート加速を強調する。だがEQCは、むしろモーター特有の初期トルクの強さとレスポンスの鋭さをひた隠しにするように、穏やかな設定にしてある。前後のデュアルモーターは強力だから、アクセルペダルを床まで踏み込めば、クラクラ目眩がするほどの加速を見舞うものの、平時ではEVを悟られないように振る舞っているように感じた。

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 さすがに操縦フィールは鈍重である。80kWhのリチウムイオン電池を床下にマウントしているとはいえ重量増は明らかで、モーターは高い位置にある。象がノシノシと大地を踏み締めるような感覚で走る。

 プロペラシャフトのためのフロアの盛り上がりは残されているし、ボンネットの中に荷室はない。流用の犠牲は少なくない。だが、EVエントリーユーザーを誘う優しさを感じる。“乗らず嫌い”を解きほぐすには都合がいいのかもしれない。

 ちなみに、車両本体価格は1080万円である。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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