日銀総裁会見、初の生配信にみる、金融当局と市場のデリケートな関係~なぜ大幅円高に?
4月上旬に開催された日本銀行の金融政策決定会合後の記者会見で、追加緩和の必要性について問われた黒田東彦総裁は「現時点では考えていない」と言明した。その理由として「わが国経済は、2%の物価安定の目標の実現に向けて、着実に進んでいるから」と答えた。さらに「現時点で追加的な緩和を行う必要があるとは思っていないが、必要があれば躊躇することなく調整を行う」と付け加えるのも忘れなかった。
黒田総裁の言葉に「サプライズ」的な要素はまったくなく、これまで述べてきたことと同じ趣旨の繰り返しである。そもそも4月上旬の決定会合で追加緩和を見込む向きは皆無に等しく、現状維持は市場の想定通り。それを受けた総裁の記者会見での受け答えがこのようなものになるのは、むしろ自然だったといえる。もっとも、仮に黒田総裁が追加緩和を考えていたとしても、それを口にするわけはない。
ところがこの会見の最中から、為替市場では円高が進んだ。ロンドン~ニューヨークと一周して戻ってきた時には実に1円以上も円高となっていた。円高が進んだのは、追加緩和期待が一気に後退したからであった。
黒田総裁の発言内容にサプライズはなかった。では何がそれほどまでに追加の緩和期待をついえさせたのか? その理由は、今回の総裁会見から初めて解禁された「ライブ映像」の配信ではないかと思う。日本経済新聞電子版や日経CNBC が、黒田総裁の記者会見の模様を生放送で中継した。僕も CNBC を見ていたが、 満面の笑みをたたえ、自信満々で会見に臨む総裁の姿を見て思った。「ああ、これでは追加緩和期待は潰えてしまう」と。
米国の心理学者、アルバート・メラビアンは著書『Silent messages(邦題:非言語コミュニケーション)』で、コミュニケーションには3つの要素があると主張している。それらは
・言語
・声のトーン
・身体言語(表情や身振り手振りなどボディーランゲージ)
の3つである。コミュニケーション、すなわち意思やメッセージの伝達に占める割合は言葉が7 %、声のトーンや口調は 38 %、ボディーランゲージは 55 %であるというのだ。「怒ってる?」と聞かれて、「怒ってないよ~」と優しく微笑みながら言えば、相手は安心するだろうが、反対に憮然とした表情とこわばったトーンで突き放すように言えば、それは「怒っている」と言っているに等しい。