結婚式を考えているカップルがまず読む総合情報誌「ゼクシィ」や、日常生活で困ったときに役に立つ情報を教えてくれるウェブサイト「All About」には共通点があります。それは、「社内起業」によって生まれたサービスだということです。
「社内起業」は、新規事業としてまったく新たなビジネスを会社内に立ちあげるというイメージが強いですが、既存事業をあらためて定義し直し、その強みを活かし、弱みを補う形で、既存事業をベースに新たなビジネスをつくり出す際にもよく活用されます。
普通の起業の場合、成功の確率はかなりシビアなものになりますが、社内起業の場合は会社のお金や人材を使える上に、その会社のブランド力も活用できます。
今、起業家精神が薄いといわれる日本において、斬新な発想を新たなビジネスに活用することができる「社内起業」は、大いに注目を集めています。
リクルート在籍中の2000年にAll About社を創業、2005年にJASDAQに上場するなど、2010年まで事業企画・事業運営の責任者を務め、サービスを成功に導いた石川明さんの著書『はじめての社内起業「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ』(U-CAN/刊)は、そんな社内起業におけるビジネスの進め方について記した一冊です。
いくら会社の傘下であっても、新規事業の立ち上げになるわけですから、これまでの仕事とだいぶ勝手は違ってくるでしょう。普段私たちが働いている中で見えているものは、ビジネスの全貌のほんの一部でしかありません。ビジネスモデルをどう作ればいいのか? ビジネスチャンスはどう探せばいい? など、戸惑うことはたくさんあるはずです。
では、そもそもなぜ企業は事業を立ち上げ、拡大させるのでしょうか。お金を稼ぐためというのは確かにそうなのですが、これは企業側の事情です。企業にしかメリットがないサービスに、お客や取引先はお金を払わないでしょう。
■「All About」はいかにして「不」を取り除いてきたか
石川さんは「事業とは『不』の解消である」といいます。「不」とは世の中にはびこる不幸、不安、不満、不遇、不自由といったもののことで、それらをサービスや製品を通して解決することが事業の本質だと指摘します。お客たちの「~したいけれどできない」という不満を汲みとり、できるようにするのが事業の役目です。
石川さんが運営に携わっていた「All About」はまさに、そうした人々の「不」に答えてくれるウェブメディアであり、さまざまな「不」が集まり、それらひとつひとつに対してサイトの編集に工夫を施すことで対応してきました。
All About社はさまざまな分野の専門家を数百人擁したウェブサイト。「専門家ならではのよりよい情報を提供する」と言ってしまえば簡単ですが、その「よりよい」とは一体なんなのか…創業当初、石川さんは徹底的に考えたといいます。
そこで見えてきたのは、当時のインターネットユーザーたちの「うまく情報を探せない」「信頼できる情報かわからない」といった「不」でした。そして、それらを解消するとともに運用側や取引先の「不」まで解決するスキームを組み立てます。それは、「ユーザーだけでは足りない」という石川さんの考えに基づくもので、そこに携わる全ての人たちの「不」を取り除くことが究極の事業の目的であるとしています。
「不」から物事を考え、それを掘り下げながら、ビジネスに組み込んでいく。All About社はそのようにして成長を遂げてきました。
本書の副題は『「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ』。その名の通り、本書には社内で新たなビジネスを立ち上げるノウハウが詰まっています。事業の仕組みはどう練ればいい? 事業計画書をどうまとめればいい? 社内で味方を増やす方法とは? そういった疑問に対して一つ一つ答えてくれます。