心からやりたいことを見つけ、他のことはそっちのけにしてそれに没頭できたら、きっと人生は濃いものになるはずだ。
でも、残念ながら多くの人はそうではない。大体の人は、あれこれと理由をつけて自分を納得させながら、やりたくないことを我慢してこなしながら、何とかやり過ごしている。そんな自分の人生を変えたいと思いつつも、行動を起こせないままに。
■『多動力』ノベライズ版はまさかのファンタジー小説
堀江貴文氏のベストセラー『多動力』をノベライズした『小説 多動力: 好きなことだけやりきったら、ロケットだって宇宙へ飛ぶはず!』(誠文堂新光社)の主人公・鈴木もその手のタイプである。
ブラック企業でこき使われる底辺SEだった鈴木が、堀江氏の言う「多動力」を身に着けて、人生を好転させていく……のかと思いきや、話はそう単純ではない。鈴木は異世界にワープしてしまう。『多動力』のノベライズ版は「異世界ファンタジー小説」なのだ。
趣味の「異世界転生もの」のファンタジー小説を物色していた鈴木は突然めまいに襲われ、気を失ってしまう。次に目を覚ましたのは中世ヨーロッパのような石造りの建物が並ぶ、見知らぬ世界だった。
右も左もわからない鈴木のもとに、どこからか現れたのが、猫耳の美少女トリュフ。彼女は鈴木に残酷な事実を告げる。
ここはアンタの現実に近くて、あらゆるものがネットにつながっているの。伝達魔法によって社会や産業、個人の生活もネットワークでつながり始めている。巨大企業ゴガイアを先頭にものすごいスピードで変化して業界の壁を軽やかに越えていく越境者であり、その越境者に求められるのが、面白そうなことを片っ端からやる――多動力なのよ(P.044より)
何のことはない。この異世界でも巨大なIT企業が社会を牛耳り、大小の会社があり、人はそこで働いて生きていかないといけない。道具やモノの名前は違うが、現実世界と似たようなものだったのだ。
そこで生き抜くために必要なのがトリュフの言う「多動力」。しかし、鈴木には何のことだかわからない。そうこうしている間に、労働者から不当に搾取する悪質なコンパニル(現実世界でいう「会社」)で働くことになってしまう。
元の世界と同様、異世界でも社畜として底辺の人生を歩むように思われた鈴木だが、街の外れでロケットのような飛翔体を飛ばす実験をする「ドックじいさん」と出会い、彼の作ったロボットに「心」を入れてあげたいと願ったことで、事態は思わぬ方向に転がっていく。
主体的に考え行動した人間には、新しい展開が次々に起こる。それは異世界でも同じ。鈴木は目の前に拓けていく予想もしない現実に翻弄されつつも、必死に食らいつく。そんな彼に「多動力」の正体が明らかになっていく……。
自分の人生を楽しく充実したものにできるのは自分しかいない。当たり前のことだが、結構忘れられがちなことでもある。
脳みそをフル回転させることもなく、何かに夢中になることもなく、その気になれば「60%」くらいの力でだらだらと生きられてしまう毎日に飽きているのなら、本書は自分が本当にやりたいことにもう一度向き合うきっかけになってくれるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。