6月に入り、2021年春に卒業予定の学生たちの就職活動が本格化している。しかし、今年は多くの企業が新型コロナウイルスの流行を踏まえて採用活動の方向を転換させているため、突如、就活のスタンダードは崩壊した。特に学生たちに直接的な影響を及ぼしているのが、従来の対面面接からオンライン面接に変更した企業が多いことだろう。
トヨタ自動車やホンダ、パナソニックといった大手企業も、面接についてはオンライン面接による選考のみで採用内定を出すと表明しており、自身を存分にアピールできないのではないかと不安を募らせる学生も多いはずだ。
しかし、今後さらに普及していくであろうオンラインでの営業や商談、打ち合わせでも能力を発揮できる人材を選別できるという点で、企業側にとってはメリットもあるのだろう。となると、面接を受ける側がオンラインでのアピール力を磨く方向にシフトするしかない。
そこで今回は、人材育成やキャリアコンサルティングなど、キャリアに関わる支援も行うWadachiLab.代表の福島知加氏に、オンライン面接で必要な事前準備やテクニックについて聞いた。
Wi-Fi環境や部屋の照明などは事前に万全にしておく
就活生の大きな不安の種となっているオンライン面接だが、福島氏いわく実はメリットも多いという。
「まず、経済的な面。対面の面接だと移動費がかかります。特に地方の学生が遠方の企業の面接を受けるとなると、渡航費や宿泊費で10万円、20万円とかかってしまうこともあります。しかし、オンライン面接であれば移動費はゼロ。実際、私がかかわっている沖縄在住の学生たちからは、オンライン面接のおかげで経済的にかなり助けられているという声が挙がっていますね。
また、例年の就活生は多忙なスケジュールのなか就職活動をしていますが、オンライン面接であれば移動時間がかからないので、すぐに次の面接や説明会に参加できるのもメリットでしょう。効率的にアポイントを取っていけるというわけです」(福島氏)
例年の就活生のなかには経済面やスケジュールの都合で、受けてみたかった企業を泣く泣く諦めたという人も多かったはずだ。オンライン面接が活用されれば移動費や移動時間の負担が軽減されるので、悔いなく就職活動を終えられる学生も増えるのかもしれない。
だが、対面の面接を練習してきたところに急遽オンライン面接に変わったことで、評価を落としてしまうタイプもいるのではないだろうか。
「基本的にはオンラインと対面、どちらの面接であっても評価が大きく変わることはないと思います。しかし、対面は苦手でもオンライン面接であれば緊張せずに話せるという人や、対面は得意でもオンラインをうまく使いこなせず、手間取ってしまう人もいます。ですから多少の得意・不得意が間接的に評価に影響してくることはあるでしょう」(福島氏)
苦手意識をなくし成功させるためには、やはり入念な準備が必要になるだろう。オンライン面接では対面面接と準備すべき事項も違ってくるはずだ。
「まず押さえておきたいのはWi-Fi環境です。公共のFree Wi-Fiではやはり通信が途切れてしまう恐れがあるので、安定したWi-Fi環境が整っているところを探すか、有線LANを利用するなどして自宅の通信環境を万全にしておくといいでしょう。
ですが万が一、ネット環境が悪くて回答が途切れて聞こえてしまっても、それだけでマイナス評価につながることはありません。とはいえ、面接時間は限られていますので、トラブルのせいで面接官が聞きたいことを聞くことができず、こちらも伝えたかったことを伝えられなかった結果、マイナスポイントにつながってしまうことはありえます。だからこそ未然にトラブルを避けるために、ネット環境の整備は重要なポイントになってきますね」(福島氏)
他にも注意点はあると福島氏は続ける。
「基本的なことですが、背景がゴチャゴチャして見えないように片付けておく、スマホの場合は充電を100%にしておくなども心得ておきたいポイント。さらに、光にも注意すべきです。照明が暗いと表情が見えにくくなってしまいます。やはり最低限、自然光や蛍光灯の光が当たっていて、自分の表情がしっかり見える場所を探しておくのが重要でしょう。プラスアルファで、肌を明るく健康的に見せたいのであれば、レフ板効果のある白いテーブルで面接を受けたり、机の上に白い紙を敷いたりしても効果的だと思います。いずれにしても、自分の表情や身振り手振りがきちんと伝わる環境を探すことに力を入れるべきですね。
また、トラブルがあって通信が途切れてしまった際や、一旦退室した際は就活生側から連絡したほうがいいので、いざというときに慌てないためにも人事担当者の連絡先は控えておきましょう」(福島氏)
録画してセルフチェックを繰り返し、不安を取り除く
実技的な面のポイントも気になるところだ。対面の面接であれば、まずノックと「失礼します」から入るというフォーマットがあるが、オンライン面接の場合はどうすればよいだろうか。
「オンライン面接では、実は特別なマナーはないんです。ですから『失礼します』から入っても問題ないですが、一番やりやすいのはいつも通りの自然な挨拶をすることではないでしょうか。『こんにちは、よろしくお願いします』と第一声を発すれば、すぐにスタートできます」(福島氏)
オンライン面接であれば、対面の会話と比較して声の調子や表情が伝わりにくいこともあるだろう。そういった特徴も念頭に置いたうえで、オンラインでもしっかり伝わる話し方が必要となってきそうだ。
「基本は笑顔で話しましょう。しかし、人間は30分も1時間も笑顔をキープすることは難しいですよね。ですから苦労したエピソードなどを語る際は、話の内容に合わせた真剣な表情で話すなどしてもいいと思います。
また発声は、気持ち大きめに、ワントーン上げながら一音一音届けるイメージで。やはりオンラインの場合は空気感で伝わりにくい面がありますので、声もボディランゲージも1.3倍大きくするぐらいの意識でいるとちょうどいいでしょう。一音一音届けようとすると、自然と話すスピードは遅くなると思いますが、それでOKです。逆に早口になりすぎるとオンラインでは聞き取りづらくなってしまいますからね。
次に目線ですが、目線はカメラに向けて、“この人はアイコンタクトをしているな”と理解してもらい、安心感や誠実な印象を与えましょう。カメラを見ると相手の目を見ていることにならないのではと思う方もいるかもしれませんが、カメラに視線を送っておくと、相手の面接官にはまっすぐに自分を見て話しているように映ります」(福島氏)
だが、パソコンであればカメラはたいてい画面上部にあるが、スマホを横にして利用する場合、カメラが横にあることになる。どうすればいいのだろうか。
「そういうときはZoomの録画機能がオススメです。どの場所に目線を送ると、自然に相手の目をみているように映るのか、録画しておいて事前に確認しておくといいでしょう。
このZoomの録画機能は活用の幅は広いんです。オンライン面接にぶっつけ本番で臨んでしまうと失敗してしまうケースも考えられますよね。ですから、一人で受け答えの練習しているところも録画しておき、何度も確認するといった準備をしておくと本番の不安も減るはずです。
自分の声の大きさ・表情・目線や、画面の中心に自分がいて、上半身がちゃんと写っているかなどもしっかりチェックしておきましょう。録画して客観的に見ると、自分の喋り方や所作の癖がわかることもあるので、改善点を見つけ、強みを伸ばしていくといいと思います。事前の準備をしっかりしておけば、万が一のトラブルに見舞われても冷静に対処できるでしょう」(福島氏)
最後に面接を終了する際に気を付けるべき点を聞いた。
「対面の面接だと移動があるので慌ただしく退室することになってしまいますよね。ですがオンラインの場合はゆっくりお礼ができます。しっかり『本日はありがとうございました』と礼をし、『失礼いたします』と退室ボタンを押す。この一連の流れを焦らず丁寧にやるのがポイントです。
私が実際に面接官を務めたオンラインでのグループ面接をした際の話ですが、最後まで退室せずにひとり残っていた学生がいたんです。その学生は『本日はありがとうございました。最後にちゃんと伝えたかったので、残らせていただきました』と挨拶をしてくれました。テクニックとしてそうやっていたのかもしれませんが、やはり印象はよかったですね」(福島氏)
オンライン面接には特有の注意点が多数あるようだが、面接を受ける側のメリットもある。環境の整備や練習を入念に行っておけば、本番でも悔いなく実力を発揮できるはずだ。
(文・取材=福永全体/A4studio)