いまだにテレワークを許してくれない会社・上司を説得する“具体的&必勝メソッド”
新年早々、再び緊急事態宣言が発令されてからはや2週間が経過した。昨年の1回目の宣言時よりも警戒感が揺らいでいるのか、都市部でも人通りは絶えない。一方で、感染者数は高止まりが続いており、もはや「移動は命のリスク」となっている。宣言期間の延長や間隔を空けての3度目、4度目の発令といった事態も現実味を帯びた今、多くの企業でテレワークの導入は待ったなしの状況となった。
業務コンサルティングを手掛けるカイト合同会社の藤川勝廣CEOは「本来テレワークを導入できる業務内容なのにできていない企業は、ポイントを再確認する必要がある」と強調する。
水道の蛇口ですら感染リスク
年末年始、都営地下鉄大江戸線が約2週間にわたって運行本数を通常の7割程度に減らす異例の事態となった原因は、運転士ら39人のクラスター(感染者集団)が発生したことだった。その感染源は宿直施設の水道の蛇口だと判明している。
「この一件が明らかにしたのは、物理的に職場に移動して同僚と生活をともにしている限り、感染リスクはいやが応にも高まらざるを得ないということです。手洗いという基本的なことにしても、今回のように蛇口はおろか、ペーパータオルの水滴にいたるまで、小手先のテクニックでは防ぎきれない。日本の場合、法律的に欧米などのようなロックダウン(都市閉鎖)が不可能な以上、企業としては社員の身を守ることを最優先にしてテレワークを導入できるならすべきだと思います」(藤川氏)
昨年はコロナ対応からテレワークの導入が盛り上がったが、実際には出社を事実上強制されることも多く、東京では年末の時間帯によっては満員電車も見受けられた。年始の挨拶回りやカレンダー配りという従来なら美徳とされる習慣もコロナ禍の現在に限っていえば、訪問先の迷惑になることも多い。
日本社会で移動が抑えられないのは、コロナの感染拡大から1年が経過し、悪い意味での「慣れ」が出てきていることもある。ワクチンの話題も盛り上がるが、副作用など不安材料は残るため、感染リスクは低くできるならそれに越したことはない。
テレワーク導入には職責の整理が必須
テレワーク導入を企業にためらわせる原因として、マネジメント層の低い意識が挙げられるケースがいまだに少なくない。テレワークをするための申請を求めるほか、会社に在籍する時間が評価軸となっている企業も残っている。藤川氏は「動きたいから動く人は止めようがないが、動きたくないけど動かないといけない人はテレワークの恩恵を受けるべきだ」と訴え、導入のためにマネジメント層を説得するポイントを紹介してくれた。
テレワークを導入するのに必要なのは、次の3点。(1)自分がすべき業務がわかっている、(2)自分のすべき業務を誰に、どのように聞けばいいかわかる、(3)アウトプットが情報である、ことだという。前回、藤川氏への取材を元に執筆した記事で詳報したように、日本企業は業務の分担が曖昧で職責が不明確なことが多く、「職場に来ないと仕事にならない」というような状況が続いてきた。(1)(2)ができれば物理的に離れた自宅にいても業務はできるはずで、(3)はほとんどのホワイトカラーが当てはまるだろう。
つまり、「企業としてどういう方向を目指していくのか、社員に何を求めるのか」がわからないから、「とりあえず職場に来て」という話になりがちだということだ。「このあたりは本来マネジメント層が考えるべき問題で、現場の若手の仕事ではないのですが、転職をしないのであれば、一度職責分担の明確化などを整理するような会議を持ちかけてみることも選択肢です」。
テレワークに移行するためのポイント
テレワークを導入した企業にも課題はある。コロナ禍以前であれば会社に出勤することが「業務開始」の合図となっており、自然と生活リズムも決まっていた面があるが、テレワークは基本的には自己管理の世界。時間を持てあまし、何をしていいかわからず、メンタルに変調をきたす人もいる。
藤川氏は、以下のようなポイントを自分の日常業務で再確認してみると効果的だという。
●自分のルーティンは何か?
○普段のルーティン
■何から仕事に着手しているか?
・業務開始にあたっての準備作業は何か?
・最初に着手している作業は何か?
・誰かとのコミュニケーションから始まっているか?
■何を持って仕事を完了としているか?
・休憩をする区切りは何か?
・業務終了の区切りは何か?
・終了時でのコミュニケーションは何か?
「まず、タイムマネジメントの基本は自分自身が日々の業務でわかりやすい区切りを付けること。パソコンを起動して決まったアプリを起動するもよし、誰か同僚とチャットで挨拶するのでもよい。とにかく、自分の一日の仕事が始まり、休憩し、終わるという一連の流れの中に自分なりのルールを整理して気持ちに余裕を持たせることが第一歩です」(藤川氏)
動画配信サイト「YouTube」では有名スポーツ選手のモーニングルーティンなどが人気が高い。自分なりのルーティンを持っているということ自体が自己管理能力の高さを証明していると言え、一般のビジネスパーソンも参考にすべき点が多そうだ。
さらに、藤川氏は、自分のルーティンをよくするポイントを以下のように説明する。
●本来あるべきルーティン
○楽で、成果の出る手順
・仕事に集中できる手順
・集中できる環境
・疲れにくい作業
○成果を見せるべき相手とのコミュニケーション
・いつ
・だれと
・何をもって
「とにかく、『楽で成果の出る』を基準に手順に洗練させていくことです。会社に居る時間の長さが評価にならない時代となった以上、自分にあった働き方を作っていくことがテレワークに求められます。集中できるなら昼寝したり動画などを見てもいい。それと、肝心なのはアウトプットを見せるべき人をしっかりと把握しておくこと。職場にいたころはなんとなく『みんな』に見せた場面もあるかもしれませんが、テレワークだとその必要が減るので、職責のある人にだけ見せるようにすれば無駄な横やりが入ることなく、スムーズな業務フローが実現できるでしょう」(藤川氏)
導入の交渉はキッチリと材料を用意して
さて、テレワークの心づもりができたところで、上司を説得するには材料や準備が必要となる。企業にとってもテレワーク導入にはそれなりに投資や準備が必要となるため、丸腰で臨んでも勝ち目は薄いためだ。藤川氏のアドバイス。
「まずは、職場で同じ境遇の人を探します。同じ部署や同じ年齢層の同僚から意見を聴いて、集団の合意としてそれなりに統一的な考えをまとめます。その上で、説得するために、『テレワークのある時とない時でどういう業務に差が出るのか、リスクは何なのか』などの視点を、従業員として自分からのメリットと、会社全体の立場に立った時のメリットをまとめます。
それから、具体的な業務フローとしてのプロセスや情報の伝達経路を整理します。この際、重要なのは絶対になくせない作業は本当にないのかを厳しく見極めることが重要です。ここまでしっかりと準備した上で上司に話をもっていけば、テレワークの重要性が叫ばれる昨今なら、経営幹部も聞かざるを得ないでしょう。ITツールを導入するにしてもPCを一新するなどしなくてもiPhoneなどでも利用できるITツールも多々あります。手持ちのIT機器で、使える人、使える場所から積極的に使っていくことも必要です」
厚生労働省は18日、コロナウイルスの変異種で感染経路不明の市中感染が国内で初めて確認されたと発表した。通常のウイルスよりも感染力が強いとされる変異種が確認されたことで、ますますテレワークの必要性が高まるのは間違いないだろう。藤川氏が主張するように「移動はリスク」の時代だからこそ、自分の命を守るためにも、今一度真剣に日本中の企業がテレワークに向かい合うべきだろう。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)