タクシーに乗ったとき、運転手さんと会話をしたことはあるだろうか。景気の話やその土地のちょっとした話など、話し好き、話し上手な運転手さんも多い。
『人生と経営はタクシー運転手が教えてくれる』(小宮一慶著、サンマーク出版刊)は、年間200台のタクシーに乗り、これまで2,000人以上の運転手さんに出会った経営コンサルタントの小宮一慶氏が、運転手さんとの会話から学んだ人生と仕事に役立つヒントを紹介する一冊だ。
■小さなことでも手を抜かない。とあるタクシー運転手の仕事術
小宮氏曰く、タクシーの運転手さんから聞く景気の話は、そのままミクロ経済の定点観測になるという。運転手さんにどんな質問を投げて話を聞き出すか、ということは、コンサルタントとして、お客さまの話を聞き、問題点や改善点を探る、貴重な勉強機会なのだ。
小宮氏がテレビの早朝番組に出演していた頃のこと。朝4時半に自宅にハイヤーが迎えに来てくれて、線路を渡る踏切が近づいてくると、運転手さんは小さく窓を開けた。
早朝なので、まだ電車が走っている時間ではない。しかし、踏切の前で一時停止する運転手。窓を閉めてあら踏切を渡るのを見て、「電車が走っている時間でもないのになぜ窓を開けるんですか」と小宮氏は聞いてみたという。
実は、この運転手さんは、踏切が近づいてきたら窓を開け、踏切が鳴っていないか、自分の耳で確かめることが完全な習慣になっているのだった。
小宮氏は、どんな仕事においても「小さなことをていねいにやる」人がプロになれると思っていると述べる。小さなことだからと雑にやる人はただの人。違いは小さいように見えるが、この小さな違いが大きな差になってあらわれるのが、仕事や人生なのだ。
また、あるとき、「どのくらい運転手をやっておられるのですか」と聞くと「46年やっています」という運転手さんがいたという。「もう東京では知らない道はないんじゃないですか」と言うと、「東京は道が変わるから、まだまだ分からない道があります」と運転手さんは答えた。
46年間もタクシーの運転手をやっているからこそのこの言葉は、「分からない」ということが「わかっている」ということだ。これが「本当に分かる」というとだと小宮氏は考える。自分が分かっていることと、分からないことを分ける。そこから学びや発展が生まれるのだ。
■気持ちよく話をしてもらうための方法とは?
では、小宮氏が運転手さんとどのように会話しているのか。相手に気持ちよく話してもらうためにいくつか気を付けていることがあるという。
まず行き先を言う。どこから乗っても家に帰るときは自宅のある「世田谷に行ってください」と言う。それから、どういうルートで言ってほしいかを言う。およそいくら稼げるかは、行き先が近いか遠いかで決まる。なので、ある程度、稼げることが最初に分かれば、運転手さんはひとまず安心し、話をする余裕が生まれる。
次に、気を付けているのは、答えやすいことから聞くこと。地方なら、天気やその土地のこと。東京なら「この車の車庫はどこですか」と聞く。こうして話しやすい話、答えやすい質問をすることで会話の流れをつくりながら、ほめるところを探す。ほめられると、人は嫌な気はしないので、口が軽くなる。
また、運転手さんに何かを教えてもらうというのも気をつける点だそうだ。教えるほうは、教えているうちに相手より優位に立った気がしてくるもの。運転手さんに優越感を少しもってもらうことで、さらにさまざまな話を聞けるのだという。
そして、小宮氏も少しずつ自分の話をするようにする。そうすると「この人は自分のことを開示する人だ」という印象を与える。相手が自分のことを話す人だと、自分の話をしてもいいかなとバリアが解けやすくなるのだ。
タクシー運転手さんのたわいのない話には、成功者のそれと同じくらい、深く、含蓄があり、仕事や経営、人生において大事にしたい考え方や忘れたくない美徳、そして自ら省みるきっかけとなることも、たくさん内包されていると小宮氏は述べる。
タクシー運転手さんと会話をする機会があったら、その会話をぞんぶんに楽しんでみてはいかがだろう。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。