終らない震災〜被災地で露呈する人間のきたない本質を隠し、美談を振りまくメディアの罪

 また地元大手新聞・河北新報の記者は、取材を続けている僕に「被災者への取材は、ナイフが刺さっている被災者の身体から、ナイフを抜く作業です」と言いました。「僕らのやっていることは、相手に大変な痛みを与えるんだということを、忘れない覚悟でいてほしい」と。あれは小説家からは絶対に出てこない言葉ですね。

 メモをとっていなくても、そういうリアルな言葉たちは、ずっと記憶に残っている。東京のメディアは、そうした事実をもっと受け取っていくべきだし、僕らも発信していかなければいけないと思います。

 震災のとき本当に腹が立ったのは、自粛とか言い出して、ライブやイベントが一斉に中止になったことです。知り合いの若いDJも「震災後はイベントをやめました」とか言っていましたが、なんの関係もないのでは? と思いました。津波の被害に遭った人たちとライブは全然関係ないし、そもそも被害者の方々はあなたのお客さんではないでしょう、と。

 やるべきことがあるなら、やればいいんです。イベントを自粛したくらいで、被災者の方々と痛みを分け合った気分になっていては、支援は長持ちしません。

 事実、現在の被災地と東京のメディアには、すごく温度差があります。ゲラ(下刷り)段階の『共震』を、たくさんの都内の書店員さんにも、読んでもらいました。上々の評判をいただきましたが、「被災地がこんな状態だなんて知りませんでした」とか「復興はとっくに終わっていると思ってました」という意見が、とても多かった。ある意味しょうがないですよね。メディア側が原発とか領土問題とか、全然違うところに向き始めたので、忘れかけられているのも仕方ない。それとも、忘れさせようとしているんでしょうか?

 震災はまったく終わっていません。

 東北の沿岸地帯を車で走れば、一目瞭然です。津波にはぎ取られた海岸線が、延々と続いています。少し前、小学館の担当編集者や家族を連れてドライブしましたが、皆一様に言葉を失っていました。僕の近しい人でさえ、そうなるくらいですから、現地に行ったことがない人たちに温度差が出るのは当然でしょう。

『共震』は、そういう現状において、強いカウンターになると信じています。僕は、被災地から離れている人たちの抱くイメージと、現実との大きな差を埋めたかった。あの日から2年とちょっと、タイミング的に出るべくして出た作品かもしれません。(談)
(取材・文=浅野智哉)

●相場英雄(あいば・ひでお)
1967年、新潟県生まれ。作家。元時事通信記者。05年に『デフォルト(債務不履行)』(ダイヤモンド社)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。12年発売のの『震える牛』(小学館)がベストセラーになり、13年には『血の轍』(幻冬舎)が第26回山本周五郎賞の候補作になる。

BusinessJournal編集部

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