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終らない震災〜被災地で露呈する人間のきたない本質を隠し、美談を振りまくメディアの罪

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0629_sinkanjp.jpg『共震』(小学館)の著者 相場英雄氏

 元新聞記者という経験を活かし、社会の暗部に切り込んだ小説で話題を呼んでいる作家・相場英雄の最新作『共震』(小学館)。2011年3月11日(以下3.11)に起こった東日本大震災の、今なお続く厳しい現状をテーマにしたミステリー小説を上梓した。

 著者である相場氏への前回のインタビューでは、執筆に対する思いやそれまでも道のりを聞いたが、今回はさらに踏み込み、被災地取材中に現場で見た生々しい出来事を語ってもらった。

●震災直後の被災地の実情

 ぼくは、3.11の大震災の前から、何度も東北の街を訪ねていました。ほとんどは『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎シリーズ』(小学館文庫/双葉文庫)の取材だったのですが、自腹旅行も多かったです。現地に友だちもたくさんできました。

 そのシリーズの最新刊が出たのが、10年の10月で……大震災の約半年前。石巻編(『偽計-みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』 <双葉文庫>)で終わっています。震災直後はまず、石巻の友人たちが生きているのかどうか、安否確認に駆け回りました。

 その後、無事を確認できた人に「いま必要なものは?」と聞いて、ガソリンや肌着セットを東京で揃えて、届けに行きました。意外と喜ばれたのは、タバコと酒。避難所には、嗜好品までは支給されないから。ああいう場では、食料など緊急の物資も必要ですが、嗜好品は人の緊張をほぐす効果があるので、かなり役立ちました。あと線香とロウソクも不足していました。避難所に届けたそばから無くなっていくのを見ると、「大勢の方々が、同時に亡くなったんだな」と胸が詰まりました。

 避難所には、ウェブメディアのルポ連載でも取材に入りました。もともと記者なので、ある程度の取材の構成や全体のテーマの青写真を持って行ったんですが、現地に入った途端、全部くずれました。

終らない震災〜被災地で露呈する人間のきたない本質を隠し、美談を振りまくメディアの罪の画像1相場英雄氏

 自衛隊が初めて風呂を設置してくれたタイミングで、避難所に一泊するつもりでしたが、2時間ほど滞在するのがやっとでした。現場の緊迫感が、尋常じゃなかった。避難所の人たちは、「よく来てくれたな」と歓迎してくださったんですが、お年寄りたちが、まったくまばたきをしないんです。津波から命からがら逃げてきた緊張と、また大きな揺れが来るかもしれない恐怖で。まだ余震も、すごかったですから。長い人生経験を積んでこられて、悠然としているはずのお年寄りが、まばたきもできないほど現実に打ちのめされている……そんなところに、とてもじゃないけど、よそから来た僕が一緒に過ごすなんて、できませんでした。

 テレビや新聞では「避難所では食事の配給時に、みんながきれいに列をつくって誰も乱さなかった、日本人は礼儀正しい」とか言われてましたけど、あんなのメディアつくった嘘です。一枚のせんべいをめぐって、いい大人が殴り合いしたり、しょっちゅう置き引き被害も起きていました。避難所の中では震災前の仕事や住んでいた地区などで、嫌らしいほど格差があったし、家を失った人たちを狙った詐欺師も、うようよ現れました。「日本人の心はみんな美しい」とか、「絆でひとつに繋がろう!」とか、耳障りのいい言葉だけで震災をとらえたらダメです。見つめなければならない、被災地における汚い人間の本質がぼやけてきます。

 震災直後の現地は、東京の人間の感傷とか励ましが、いっさい吹き飛ぶほどの惨状でした。僕は震災から3週間後に、全校児童108 人のうち74人が死亡・行方不明になった石巻の大川小学校を訪ねましたが、ポル・ ポト政権の市民大虐殺を描いた映画『キリング・ フィールド』(1984年/ローランド・ジョフィ監督)を思い出しました。–田んぼに迷いこんだガイドが側溝に落ちて、おびただしい数のミイラを見つける。ミイラはすべて虐殺された市民だった–それに似た、あまりにも濃密な死の匂いが、辺りに立ちこめていた。自衛隊員も、着の身着のままの父兄だと思われる方たちも、呆然と、泥だらけの校舎の周りに立ち尽くしている。僕もカメラのシャッターを切ることなく、ただ何もない風景を見ているしかできませんでした。

 あらゆるメディアで報じられているとおり、確かに被災地には美談もあったかもしれないですけど、そこばかり語っていたらダメです。例えば、宮城県の石巻日日新聞は、震災の当日から手書きの壁新聞を発行し続けたことで、感動を呼びました。ですがあれも、当の記者たちは、新聞記者として普通の努力をしただけで、ヒーロー扱いされるのにすごく戸惑っています。当時の古い壁新聞なんて、僕が新聞社を訪ねたときは、そこらに捨ててありましたから。

●震災はまだ終わっていない

 知り合いの記者は、ノンフィクション作家・石井光太さんの著書『遺体-震災、津波の果てに』(新潮社)を、原作も映画版も見ることができない、と言っています。理由は見てしまえば、「自分が記者でいられなくなる」からだと。記者が、記者でいられなくなるというほどの怖さって、計り知れないですよ。

BusinessJournal編集部

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『共震』 現地で取材を重ねてきた著者が、被災者の心情や震災を利用した犯罪を交えながら描いたミステリー。 大和新聞東京本社の遊軍記者である宮沢賢一郎は、東日本大震災後、志願して仙台総局に異動する。沿岸被災地の現状を全国の読者に届ける毎日のなか、宮沢とも面識のある県職員が、仮設住宅で殺害された。被害者の早坂順也は、復興のために力を尽くしてきた人物だったのだが……? 発売/小学館 価格/1575円 発売中 amazon_associate_logo.jpg

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