「あ゛ー」や「え゛」といった表記をマンガやネットなどで見かけたことはあるだろう。これは、「あー」では言い表せない叫びを「あ゛ー」で表現している。現代では感情を的確に表現するうえで、発音と表記の間にズレが生じており、それを埋め合わせるためにこのような表記が使われているといえる。
また、「を」と「お」、「は」と「わ」、「じ」と「ぢ」など、発音はほとんど同じなのに、どうして書き分けるのか。
小学校の国語で最初に習った「五十音図」の原型は、約1000年前の平安時代に明覚上人の研究によって作られた。そして、1000年後の現代はこの「五十音図」ではカバーできないほどに「音」が増えている。
そこで『あ゛ 教科書が教えない日本語』(山口謠司著、中央公論新社刊)では、古代の万葉仮名、「いろは歌」、江戸から明治の文学、学校の国語教育、現代のマンガにいたるまで史実にもとづいて日本語の進化の謎を紹介している。
■「を」と「お」の違いとは
ここでは本書から「を」のルーツと、「お」との違いについてピックアップしよう。
「を」は、漢字の「遠」の草書体から生まれたひらがな。「ヲ」は「乎」を略して作られた。現代日本語では、目的を表す格助詞にしか「を」は使われない。
では、「を」と「お」の違いは何か。
「を」は、「ウォー」と叫ぶ音が助詞となったもの。これに対して「お」は「偉大な」「素晴らしい」「とっても素敵な」「有難い」などの意味のある「大」あるいは「御」が、日本語を共有する文化圏の識閾下にある。「識閾下」とは、心理学用語で無意識から意識へ、あるいは逆に移る「境目」のこと。
「を」は「ウォー!がんばるぞー!」と雄叫びをあげるように、自分の内部から外側に向かって発せられる音だ。それに対して「お」は驚きを表す。外側からやってくる者に対して、自分の内部がそれを「美しいなあ」「素敵だなあ」と思って発せられる音なのだ。
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他にも、消えた「ゐ」「ゑ」の秘密や「へ」と「え」の違いなど、学校では教えてくれない身近な日本語について取り上げる本書。普段当たり前に使っているのに、奥深い。そんな日本語の面白さを教えてくれる。
自分たちが日々使っている言葉だからこそ覚えておきたい「教養」が詰まった一冊だ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。