ビジネスジャーナル > キャリアニュース > 授業崩壊…深刻化する小一プロブレム  > 3ページ目
NEW

崩壊する小学校~教室内徘徊、授業妨害、教師無視…深刻化する「小一プロブレム」の実態と打開策

【この記事のキーワード】

–親として、強制しなかったことが、かえってよかったんですね。

汐見 僕はそう思っています。勉強はやらされるもので、やりたくなくても意味がわからなくても、やらなければいけないものだとなったら、自分で面白いものにどんどん突っ込んでいくタイプにはならないような気がしたんです。

–先ほどおっしゃっていた、お節介の焼き加減を上手に見極めればいい、と。

汐見 確かに、お節介も必要なんです。午前中は国や親のお節介で勉強し、午後は誰かちょうどいい指導者を見つけて自分のやりたいことを一生懸命やるというのが、ひとつのわかりやすいやり方です。ここは知らないと困るかなということはお節介を焼くけど、拒否されたら「まあいいか」と引くバランスは、母親だけでも父親だけでもよくなくて、2人でどうしようかと悩んであげてほしい。お母さんが1人で子育てをやっていると、やっぱり心配でしょうがないと思いますよ。どこかで「大丈夫だよ」と言ってくれる人がいないとダメです。子どもが勉強を嫌がるのには理由があるんです。子どもは本来「これ面白いな」「なぜこれは必要なのかな」と思ったら少しはやるのに、いま学校はそれをやってくれない。

–親が果たすべき役割は、嫌がる理由を取り除いてあげるというか、見極めて適正に導いて、ほどよくお節介を焼いてあげるということですね。

汐見 それができれば一番いい。なぜ勉強が必要なのかを説明して、子どもが「なるほどな」と思ってくれれば、それは親からのサポートになりますね。

–忙しいビジネスマンと言われる現代のお父さんたちですが、一緒にいる時間も大切だけど、あまり会えないからこそ、しっかり見てあげることが大切なんですね。

汐見 ちゃんと見ていてあげてほしいですよね。奥さんから「子どもがあまり勉強したがらない」と聞いたら、ここは父親が出ていかないといけないと思ってほしい。子どもが勉強をしたがらない時は理由があると思うんです。面白くないと感じているのかもしれないし、勉強がわからなくなってきているのかもしれない。義務教育は、わからない子どもがいなくなるようにするのが義務なので、そういうところはフォローしてあげないといけない。

–親がそういう問題点を探るとき、自分の子どもだけでなく学校や子どもの友人からも話を聞くと思うのですが、どれくらい信じてあげるべきなのでしょうか? ある程度の客観性も必要ですか?

汐見 子どもの言うことを100%真に受けたら親じゃないです。子どもは子どもの世界の中でそう思っているけれど、大きな枠で見たら「それは、あなたのわがままだよ」ということもあるかもしれない。「それは友だちのほうがかわいそうだよ」とか「先生にだって立場があるんだよ」ということがあるじゃないですか。今どきは大学生に教えていても、学生と全く同じ言い分で親から電話がかかってきて、「それじゃ小学生と同じですよ」とこっちが親を諭さなければいけないことがあります。この子はなぜこんなことを言うのか、を考えて「友だちはどういう状況にあるの?」「先生はどう言っていたの?」と言ってあげるのが親なんですよ。

–本の中の事例を見ても咀嚼が足りないというか、子どもの言い分をそのまま受け止める人が多いですよね。

汐見 そうです。確かに今の学校はいじめとかありますけど、子どもは全てを客観的に報告できないですよ。全体はもっと違う状況かもしれない。子どもの言い分はなるほどと思いながらも、全体像だと思って聞かないほうがいい。

–小一プロブレムを乗り越えるためには、親の成長も当然問われるわけですよね。

汐見 子どもを育てる時は、親が一皮むけるとか別の建前に立つとか、そういうことをしないと付き合いきれなくなってしまいます。

–先生の経験を踏まえて、まとめ的にお聞きしたいのですが、ほどほどに世話を焼く以外に親が子どもに示すものとは何なのでしょうか?

汐見 古い言い方かもしれませんが、子どもって親の背中を見ているものだと思うんです。かっこよく説教した時の言葉なんてあまり覚えていなくて「なぜこんなことで怒るんだ」ということが記憶に残っていて、それよりも「一生懸命仕事しているな」「疲れているのに頑張っているな」とか、困った時にみんなを笑わせてくれたとか、生き様そのものが子どもに影響を与えていくと思うんです。親は自分が一生懸命働いている姿は見せるけど、だからお前もこうしろとは言うべきではない。それは子どもが選ぶことなので、親が一生懸命生きている姿に共感してくれれば何かを学んでくれるだろうし、反発すれば違う何かをつくる。ただどんなことがあっても後ろから応援はする。「どんな道を選ぼうが、それはお前の人生だ。金が必要なら言ってこい。出せる金額なら出してやる」という程度の応援でいいと思います。

–親の背中を見た子どもの反応もいろいろですよね。そこに乗る子もいれば、反発する子もいる。

汐見 反発はあるんですよ。反発しなきゃ、主体性がないという気がします。背中の見せ方も、いろいろあるんだと思います。仕事をしていると、あまり一緒にいられないと気にする人もいるかもしれないけど、人生のたった一日を費やしただけで子どもが一生覚えているということもあるわけですから。親が勝手に、一緒に過ごす時間の長さが大事だと思い込まないことですね。背中は、自分が意識しないで見られているものですから。結局、人間は親の教育のいいところは取り入れ、反発するところは反発していくしかないんです。
(取材・文=丸山佑介/ジャーナリスト )

●汐見稔幸(しおみ・としゆき)
1947年大阪府生れ。東京大学教育学部卒、同大学院博士課程修了。東京大学大学院教育学研究科教授を経て、2007年10月から白梅学園大学教授・学長。
専門は教育学、教育人間学、育児学。育児学や保育学を総合的な人間学と考えており、ここに少しでも学問の光を注ぎたいと願っている。
また、教育学を出産、育児を含んだ人間形成の学として位置づけたいと思い、その体系化を与えられた課題と考えている。
3人の子どもの育児にかかわってきた体験から父親の育児参加を呼びかけている。

BusinessJournal編集部

Business Journal

企業・業界・経済・IT・社会・政治・マネー・ヘルスライフ・キャリア・エンタメなど、さまざまな情報を独自の切り口で発信するニュースサイト

Twitter: @biz_journal

Facebook: @biz.journal.cyzo

Instagram: @businessjournal3

ニュースサイト「Business Journal」

『本当は怖い小学一年生』 「小一プロブレム」と呼ばれ、小学校低学年の教室で起こるさまざまな問題は、じつは「学びの面白さを感じられない」子どもたちからの違和感や抵抗のあらわれだ。子どもの可能性を引き出すために、今必要なものは何か amazon_associate_logo.jpg

崩壊する小学校~教室内徘徊、授業妨害、教師無視…深刻化する「小一プロブレム」の実態と打開策のページです。ビジネスジャーナルは、キャリア、の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!