2月6日、過去にファッション雑誌「小悪魔ageha」(インフォレスト)の読者モデルとして活躍したモデル・武田アンリが万引きで逮捕されたが、彼女はなぜこのような事件を起こしたのか。その裏を探ると、モデルという職業の厳しい現実が見えてくる。
芸能事務所関係者によると、ここ数年、モデルの数は増加傾向にあるという。現在、一般社団法人・日本モデルエージェンシー協会に登録しているモデル事務所は60社以上。もちろん協会に登録していない小さな事務所もあるし、有名な大手芸能事務所も多数のモデルを抱えている。これだけでもかなりの数だが、さらに「読者モデル」と呼ばれる、ある意味“モデル予備軍”とも呼べる人々もいる。「読モ」は首都圏だけで1,000人以上いるというから驚きだが、そこで気になってくるのが、モデルたちはどのようにお金を稼いでいるか、という点である。
ファッション雑誌関係者は、モデルの現実について次のように明かす。
「モデル事務所の多くが歩合制なので、仕事が入ったら事務所がそのモデルに給料を払うという形式ですが、ファッション雑誌で無名の子が使われることはほとんどありません。有名にならない限り、雑誌に出ても1ページ2万円前後で、CMもメインのタレントがいて、そのタレントと一緒に映る“その他大勢”のような扱われ方になるため、出演料は数万円。『私、モデルやっています』と言うモデルの大半は『私、モデル事務所に所属して、雑誌やCMのオーディションに通っています』というのが実態です。モデルとしての収入がゼロの月もザラで、収入があっても数万円というモデルが大半です。それも、撮影会を開いたり、美容室のモデルや小さなイベントで日当をもらうケースが圧倒的に多い。『モデルやっています』という子に『どの雑誌の何月号に出てるの?』と聞くと、だいたい答えをはぐらかされてしまいます」
だが、ここで疑問なのは、そのような厳しい状況にもかかわらず、数多くのモデルが夢を追い続けられる原動力とはなんなのだろうか? ということだ。
「モデルの肩書があるだけでチヤホヤされるからです。モデル事務所に所属していれば、当然、周囲から合コンの誘いも増える。デートをしても、それまでは「割り勘でファミレス」だった子たちが、急に高級レストランで男性にご馳走してもらえる。自身をモデルだと思わせてくれる、華やかな世界から離れられなくなるのです」(同)
生計はアルバイト頼み
とはいえ、毎晩男性にご馳走してもらうわけにはいかないし、モデルの収入だけでは家賃も払えない。そこで、多くのモデルたちはアルバイトをしているらしいが、ここでも売れないモデルの悪癖が出ると、ある飲食店店長はいう。
「とにかく、オーディションを理由にしたシフトチェンジや遅刻が多い。それだけならまだしも、数年モデルをやっている子だと、行きたい飲み会やイベントがあると平気で欠勤する。一応、理由は風邪ですけど、ご丁寧にブログに『○○のイベントに招待されました』と書いていますからね(苦笑)。これは、“飲食店業界でバイトをしているモデルあるある”です。そういうタイプの子は、普通のシフトの仕事はできないから、夜の仕事に流れていく。最近、『もともとはホステスでした』と暴露するタレントもいますけど、あれ逆ですよ。タレントとして活動していたけど、それだけでは生活できないからホステスをやっていたのです。特に、最近は働くのに敷居の低い、ガールズバーなどもありますから、モデルやグラビアアイドルたちの多くがそういったお店で働いています」
芸能界で活躍する有名モデルの平均年収は1,000万以上ともいわれているが、商品プロデュースなどモデル以外の収入が半分以上だという。有名モデルですらそうなのだから、無名モデルは細々とした収入しかないことは容易に想像できる。
それでも、多くの無名モデルたちは、売れていないことを匂わせない。前出の飲食店店長の店で働くモデルのブログを見たが、アルバイトには一切触れず、トップモデルのような私生活を綴っている。使っている香水やボディクリーム、パーティー、友人の話など“リア充”ぶりをアピールしている。
ある男性モデルは、「女性のモデルはプライドが高い。だから、売れないのにモデルという職業を続けているのでしょうけど、モデル同士ではやせ我慢と自慢のしあいですよ。以前モデルと交際していたことがありますけど、彼女たちが結婚できるのは、チヤホヤできる余裕と財力を持った企業社長などです」という。
理想の自分と現実のギャップを玉の輿婚で埋めらることができた売れないモデルは、ある意味勝ち組といえるだろう。その半面、いつまでもそのギャップを埋められずに虚言を繰り返してしまう売れないモデルも多い。逮捕された武田アンリがそうした例のひとりであったかは定かではないが、犯罪に走ってしまった背景には、モデル業界の厳しい現実があったのかもしれない。
(文=「ホテル&レストランジャーナル」編集部)