最初に田野瀬氏がカリキュラム変更を提案したときの2人の賛同者のうちの1人である福井士郎先生は、新任教員だった頃に“登校拒否”を経験している。いきなり問題児ばかりのクラスを任され、頭痛を引き起こすようになってしまったのだった。
だから、登校拒否の生徒たちの気持ちがよくわかる。彼らがどうしてほしいのか、身を持って体験しているのだ。
1期生が2年生になった秋、福井先生がかねてより目をつけていたAくんが突然学校にこなくなってしまう。Aくんは中学校の頃に登校拒否を起こしていたが、頭の回転は速く、ちゃんと勉強をすれば、学年トップを取れるほどの実力があった。
そんなAくんが3日間欠席すると、福井先生は「登校拒否」と判断。特効薬を処方する。その特効薬とは、学校に連れてくること。生徒がその病に伏せっているときは、とにかくまわりが騒がないことが一番だ。しつこく来ない理由を聞いたり、親に相談したりするのは逆効果。連れてくる場合は前触れもなく自宅に行き、しゃべらずに粛々と、機械的に登校準備する。これが福井先生の特効薬だった。
しかし、Aくんは両親が共働きで、玄関の鍵が閉まっている。Aくんが中にいると判断した福井先生は、Aくんを刺激しないように雨どいを伝って2階のベランダの窓を開け、“訪問”に成功した。そして眠っているAくんを起こし、抵抗するヒマを与えずに学生服を着させ、そのまま学校へ連れていくことができた。
学校にきたAくんはクラスメートとのコミュニケーションの中で、登校への意欲を取り戻し、その後は皆勤だったという。
そんな1期生たちは受験戦争の荒波を見事に乗り切り、関西大学の合格者数は22名と目標の20名を突破。同志社大学や立命館大学など、近畿地方の名門私立だけでなく、慶應義塾大学や早稲田大学、そして大阪大学や九州大学などの国公立大学の合格者も輩出した。
入学当初の偏差値からすれば、大躍進ともいえるこの事態に最も喜んだのは教員たち自身だった。「あいつら、ようやったわ」、そんな言葉が飛び交ったという。そしてここから、進学校への道が開けていくのである。
西大和学園から東大合格者が生まれたのはその翌年のこと。1期生で登校拒否を起こしていたあのAくんだった。1浪をして、無事合格をしたのだという。
進学校の教育方法が解説されている本はあっても、やはりそこにいる教育者の熱意がどこまであるのかということが何よりも重要だ。高校生とはいえ、まだ子ども。教員の姿を見て、大人への階段を登ろうとしているのだ。
本書には西大和学園の道のりが描かれている。教員だけでなくすべての親に読んでほしい、教育とは何かを今一度考えさせてくれる一冊だ。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。