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医学部、なぜ志望者殺到?学費4千万以上も、値下げで学生争奪戦勃発

文=松井克明/CFP
医学部、なぜ志望者殺到?学費4千万以上も、値下げで学生争奪戦勃発の画像1「Thinkstock」より

「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/3月21日号)は『高まる若者の“医者信仰” 医学部 医者 ウラとオモテ』という特集を組んでいる。「医学部を志望する若者が増えている。医学部受験、大学病院、そして医師という仕事の実態を探った」という内容だ。

 大学全入時代にもかかわらず、医学部に人気が集中している。

「国公立、私立を合わせた全国80大学の医学部の延べ志願者数は、2007年度の12.8万人から昨14年度は16.9万人まで増加。国公立は大学入試センター試験で事実上の足切りがあるため横ばいだが、私立大学は07年度比で約55%も志願者数を伸ばした」(同特集より)

 医学部受験生の中で、近年目立つのは一般家庭の子供だ。

「長期の経済停滞、特にリーマンショック以降、医学部の人気が高まったことは間違いない。特に理系学生の上位層で医学部志向が強くなっている。かつて『技術立国』の名の下、理系の花形といえば工学部だった。それが現在では、理系秀才が次々と医学部に吸い寄せられている」(同特集より)

 東京・新宿区の私立海城高校では10年前から、医学部進学希望者向け課外講座がある。その内容は「医師志望論」から「地域医療論」まで幅広い。

「医療に関する知識がほとんどないまま医師を目指す生徒もいた。ミスマッチが起これば、本人だけでなく、社会的にも損失。しっかりと医療を理解したうえで医師を目指してほしかった」と、同校の教諭は語る。

学費と難易度の関係

 志望者急増には、医学部の学費の値下げも大きく影響している。

「08年度の順天堂大学を皮切りに私立大学が相次いで値下げを実施。今では入学費を含めた6年間の学費が、2000~3000万円という医学部が増えている。(略)帝京大学は14年度入試から6年間の学費を約1170万円引き下げ、3750万円にした。その結果志願者が急増し、今春の入試でも118人の定員に対し約9000人の受験者が殺到した」(同特集より)

 実質倍率は70倍以上にまで上がったわけだ。実は、医学部受験では学費と志願者数・難易度の間に「逆相関」があり、学費が安くなればなるほど受験者数が増加し、つられて偏差値が高くなるのだ。

 この点に注目したのが「AERA」(朝日新聞出版/1月26日号)の記事『私立大学は最安でも2千万 学費偏差値、反比例の法則』だ。

「6年間で家一軒分」といわれるほど高い私立大医学部の学費だが、「首都圏の難易度が高い大学ほど学費が安い。『最安値』の順天堂大学の学費は2080万円。偏差値は慶應大、東京慈恵会医科大学に次ぐトップクラスだ。逆に偏差値からは最も入りやすそうな川崎医科大学は、学費が4550万円と最も高い」(同記事より)

 ちなみに偏差値は順天堂大学が65で、川崎医科大学が53だ。慶應義塾大学はトップランクの偏差値73で学費は2174万円。一方で国立大学医学部の学費は6年間で350万円程度。この差で、地方の優秀な学生は国立大学に流れてしまう。例えば、東京大学医学部の偏差値は78だ。

 このために、慶應大は15年から「総額800万円の給付。返済の義務なし。入学時に保証」という大型奨学金制度を導入する。現在、慶應大医学部の8~9割は首都圏出身者が占めており、大型奨学金制度を導入することで、国立大学医学部に流れがちな全国の精鋭を集めたいというのが狙いだ。

 全国に260校程度ある医系予備校でも、年間の学費は500万円かかることもザラだといい、大学の学費と合わせると数千万円を覚悟しなければ、なかなか医師は目指せない。定年がなく、平均年収1154万円といわれる医師になったあかつきには、十分に学費投資の元は取れる計算だ。また、少子化が進めば進むほど一族を挙げてバックアップしやすく、医学部進学熱は高まっていくだろう。
(文=松井克明/CFP)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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