ビジネスジャーナル > スポーツニュース > セ新人王候補、森下・戸郷の共通点
NEW

セ・リーグ新人王争いが白熱!最有力の巨人・戸郷vs広島・森下、意外な“共通点”とは

文=上杉純也/フリーライター
【完了・早めでお願いします】セ・リーグ新人王争いが白熱!最有力の巨人・戸郷vs広島・森下、意外な共通点とはの画像1
森下暢仁(森下暢仁Instagramより)

 今年の日本プロ野球のセ・リーグ新人王争いは、2人の投手による一騎打ちの様相を呈している。1人は昨年のドラフト1位で広島東洋カープに入団した森下暢仁。そしてもう1人は、一昨年のドラフト6位で読売ジャイアンツに入団した戸郷翔征である。

 森下は最速155キロの伸びのあるストレートと落差のあるカーブ、そして沈むチェンジアップなどを武器に、10月5日現在で7勝3敗、防御率2.42をマーク。

 対する戸郷もスリークォーターのフォームから最速154キロのストレートを投げ込み、そこに切れ味鋭く曲がる2種類のスライダーやスプリットなどの多彩な変化球を交える投球を駆使して、10月5日現在で8勝4敗、防御率2.75という成績を残している。

 この2人はドラ1とドラ6と、入団時の球団からの期待値には大きな差があった。だが、意外な共通点があることをご存じだろうか。彼らはいずれも甲子園で活躍したスターではないのである。そんな2人がプロの世界で新人王を巡って争っているのだ。

 そこで今回は、この2人の高校時代の足跡を辿ってみたいと思う。まずは昨年のドラ1右腕・森下から。

 森下の出身は大分県大分市。13年春の高校進学時に選んだのは、当時、甲子園に春夏合わせて計19回もの出場を誇っていた地元の古豪・大分商であった。入学すると、いきなり1年夏から控え投手兼野手としてベンチ入りメンバーに選ばれるのである。しかも同校は2年生ながらエースナンバーを背負う笠谷俊介(福岡ソフトバンクホークス)の活躍もあり、この年の夏の県予選で16年ぶりの優勝を飾り、甲子園出場も果たした。

 ところが本番の甲子園ではチームは修徳(東東京)の前に2対8で初戦敗退を喫してしまう。森下は背番号11を背負ってベンチ入りしていたが、出番はなく試合は終わってしまったのであった。

 この直後の1年秋に結成された新チームでも主戦投手の座には笠谷が着き、森下は2番手投手として控えることとなる。2本柱の力投もあり、チームは夏に続き秋の県予選でも決勝戦まで進出。杵築との決勝戦で先発登板を果たしたのが森下だった。結果は7回3分の2を投げ、被安打7、失点2という好投をみせたが、味方打線の援護がなく、0対2で敗れて準優勝にとどまった。それでも続く秋の九州大会の切符を手に入れたチームは、その初戦で美里工(沖縄)と激突する。ここはエースの笠谷の登板となり、森下に出番は回ってこなかった。

 大事な初戦で笠谷は被安打5、6奪三振で完投したのだが、1回表に奪われた1点が致命的となり、チームは0対1で完封負け。こうして翌14年の春の選抜への道が絶たれてしまったのであった。

 翌2年夏の県予選。なんと森下は野手として活躍することとなる。初戦となる2回戦の別府鶴見丘戦で2番・サードでスタメン出場を果たすと、4打数2安打1打点をマーク。チームの12対0での6回コールド勝ちに大きく貢献したのであった。続く3回戦は大分南相手に5対1で快勝。森下はこの試合も5打数3安打1打点と、その打棒が爆発した。

 さらに準々決勝の大分上野丘戦でも4打数で1安打。だが、打線全体で相手投手に5安打に抑えられ、チームは0対5で完敗。結果、野手に専念した2年夏は予選3試合で13打数6安打2打点。打率は驚異の4割6分2厘と、打力もあることをアピールするも、チームを甲子園へと導くことはできなかった。

 そして最上級生となった2年秋。新チームでようやく森下はエースの座を掴むこととなる。エース・森下を擁する大分商は2回戦から登場すると、大分雄城台を7対0、大分西を2対0、そして準々決勝で藤蔭を6対4で降し、ついにベスト4進出。特に藤蔭戦では4失点したものの9回を投げ、13奪三振の力投を披露したほどだった。

 こうして次戦は、勝てば翌15年の春の選抜につながる秋の九州大会が決定する準決勝に挑む。ところがこの大一番の明豊戦で、前日の疲れが残っていたのか、肝心の森下が大乱調。味方守備陣も5失策を露呈し、0対8の大敗を食らってしまった。こうして3大会連続で甲子園行きを逃し、文字通り最後の夏に懸けることとなった。

 迎えた3年最後の夏。大分商は初戦となる2回戦で別府青山・翔青の連合チーム相手に2対0と完封勝利を飾り、好発進する。この試合ではなんと8球団のスカウトが森下の視察に訪れていたが、そのスカウト陣の前で自己最速タイとなる148キロをマークしたのだ。結局、相手打線に打たれたヒットはわずか3本。さらに9三振を奪う快投であった。

 その後も森下の右腕は冴える。続く3回戦は大分高専に7回コールドの7対0で大勝し、準々決勝では佐伯鶴城相手に3対2で競り勝ち、ベスト4へと進出。準決勝でも杵築に対して3対1で勝利し、とうとう甲子園まであと1勝というところまで迫った。

 迎えた決勝戦で雌雄を決する相手は、昨年秋の県大会で完敗を喫した宿敵・明豊であった。森下はこの難敵相手に9回を投げ、被安打6、与四死球1、4奪三振の力投をみせる。だが、3回表に失った1点を打線が取り返せず、0対1の惜敗に終わった。

 森下はこの最後の夏の予選全5試合に先発し、42回を投げ被安打21、与四死球6、21奪三振、4失点という見事な投球内容を披露したが、それでも甲子園には手が届かなかったのである。

 つまり、1年の夏に出場して登板せずに終わったあのたった1試合が、森下にとっての甲子園だったワケである。

戸郷翔征の高校時代

【完了・早めでお願いします】セ・リーグ新人王争いが白熱!最有力の巨人・戸郷vs広島・森下、意外な共通点とはの画像2
戸郷翔征(読売ジャイアンツ 公式サイトより)

 一方、戸郷は宮崎県都城市出身。16年春に聖心ウルスラ学園に進学している。同校は05年夏に、創部3年目にして甲子園初出場を果たした経験もある県内の私立。いわば新興勢力である。そこで1年秋からベンチ入りを果たすと、なんと翌17年夏の県予選では主戦投手として05年以来12年ぶりとなる優勝を成し遂げ、チームを2度目の夏の甲子園へと導いている。

 初戦の延岡商戦では7回を投げ、被安打4、13奪三振、失点1の快投で10対1というチームの8回コールド勝ちに貢献した。2回戦の富島戦は登板を回避したものの、チームは12対3で7回コールドの大勝を収めている。続く3回戦は強豪・日章学園と激突し、延長11回にまでもつれる死闘となった。結果的に8対4での勝利となったこの一戦で、戸郷は11回を191球で完投し、10本のヒットを浴びて4点を失ったものの、16三振を奪う熱投でチームの勝利を呼び込んだ。

 続く準々決勝の鵬翔戦と準決勝の宮崎日大戦はともに5対2のスコアで快勝し、いよいよ決勝戦を迎える。この2試合、準々決勝では9回1イニングでリリーフ登板し、被安打1、奪三振1の無失点投球を披露したものの、準決勝では先発完投して被安打5、奪三振6ながら、8四死球を与える乱調ぶり。それでも失点をわずか2点に抑えているところはさすがのピッチングだった。

 甲子園出場をかけた決勝戦でも、戸郷の右腕は冴えた。日向学院相手に許したヒットはわずか4本。9奪三振、2失点で完投して、7対2で勝利を収めたのだ。

 そして迎えた夏の甲子園。聖心ウルスラ学園は初戦で早稲田佐賀と対戦することとなった。戸郷の右腕はここでもエンジン全開となる。141キロのストレートに縦のスライダーやチェンジアップを交え、毎回の11三振を奪ったのである。与えた得点もわずか2点。見事、5対2で勝って初戦を突破。そしてこの勝利は同校にとって春夏の甲子園を通じて記念すべき初勝利だった。

 続く2回戦は東北の強豪・聖光学院(福島)との対戦であった。この試合巧者相手に戸郷は苦投。7回3分の1を投げて奪った三振はわずかに1つ。さらに10本ものヒットを打たれ、チーム全体で3つもの暴投を献上してしまい、勝ち目はなかった。結果、戸郷は失点5、自責点4で、チームは4対5で逆転負けを食らってしまう。無念の2回戦敗退。そして戸郷にとってはこれが最初で最後の甲子園となるのである。

 最上級生となって結成された新チームだったが、秋の県大会は1回戦の飯野・都城高専戦は11対1の7回コールドで、2回戦の延岡星雲戦は7対2と2試合連続で快勝したものの、3回戦で不覚を取ってしまった。都城東相手にまさかの2対4で競り負けてしまったのだ。

 さらに最後の夏も、ベスト8で無念の涙を飲むこととなってしまう。初戦の都城農戦を4対3、続く宮崎西戦を10対4と下して挑んだ準々決勝だったが、前年夏にも3回戦で対戦して苦戦させられた日章学園に、2対6でリベンジを許してしまったのである。

 この試合、戸郷は9回を完投したものの、13本ものヒットを許し、序盤から小刻みに得点を許す結果となった。奪った三振もわずかに6。完敗であった。それでも大会初戦の都城農戦では自己最速の148キロを叩き出し、14奪三振をマークしている点は注目に値しよう。

 このように森下は甲子園で登板なし。対する戸郷も2回戦敗退で高校時代は甲子園のスターではなかった。そんな2人が、いったいいつ、プロ注目の投手となったのだろうか。

 森下は高3の春だ。3月に同じ九州の強豪・鹿児島実との練習試合で自己最速となる148キロをマークしたうえ、抜群のコントロールで相手打線をまったく寄せつけずに完封。続く春の県大会2回戦での大分豊府戦では7回参考記録ながら、ノーヒットノーランを達成している(チームは3回戦で敗退)。

 決定的だったのは、6月に行われた東海大相模との練習試合だ。146キロのストレートを武器に好投。実は当時の東海大相模には小笠原慎之介(中日ドラゴンズ)や吉田凌(オリックス・バファローズ)という、その年のドラフトの目玉である2人の投手がいたうえ、結果的にこの年の夏の甲子園で優勝するほどの巨大戦力を抱えていた。そのため、プロのスカウトたちが多く詰めかけてきていたのだが、なんと森下はそのスカウト陣の前で9回を完投し、被安打8、10奪三振、無四死球という見事な内容で、強豪相手に2対2の引き分けに持ち込む原動力となったのである。そこから一気に評価が急騰したというワケだ。

 実はこの好投の裏には、前年晩秋に森下を襲ったケガの影響がある。両第一肋骨を骨折し、1月下旬まで約2カ月にわたって戦線を離脱するハメになったのだが、この投げられない期間の身体づくりで体重が増えたのだ。これによってストレートの最速が148キロにまで上がったのである。これぞまさに“怪我の功名”であった。

 一方の戸郷は、夏の甲子園大会終了後に選ばれた宮崎県選抜チームでの試合が大きい。根尾昴(中日)や藤原恭大(千葉ロッテマリーンズ)ら、この年の春夏の甲子園を連覇した大阪桐蔭勢が中心となったU-18日本代表との壮行試合が行われ、リリーフ登板を果たした戸郷は、149キロのストレートに変化球を交えてU-18日本代表打線を翻弄。5回3分の1を投げ、被安打5、9奪三振、与四死球3、失点2という快投をみせたのである。特に中日にこの年、ドラフト1位で入団することとなる根尾から奪った3球三振は圧巻であった。

 こうしてプロ注目の投手となった2人。特に森下は甲子園不出場ながら、U-18日本代表に選ばれるなど、ドラフト上位候補として高い注目を浴びたが、プロ志望届を提出せずに東京六大学の雄・明治大への進学を決断した。

 その後の4年間で森下は明治大のエースにまで成長し、神宮で活躍、名実ともにドラ1投手となり、広島東洋カープに入団する。対する戸郷は高卒ドラ6ながら、読売ジャイアンツへと入団。互いに道は違えど、同じ九州の高校でエースとして君臨した2人が今年の新人王を争う展開となったのは、何かの縁を感じてしまう。

 その注目の新人王の行方だが、9月末現在で防御率はやや互角も、勝ち星は戸郷が2つリードする展開となっている。残り試合が40試合を切っていること。さらに読売がほぼ優勝を確実にしていることから、戸郷の有利は動かないとみられる。

 だが、その戸郷も直近の6~8勝目は無双状態で勝っているのに対し、3、4敗目は5失点以上の大量失点を喫している点が気に掛かる。対する森下は、好投するも打線の援護がないために勝ち星に見放されたり敗戦投手になるケースが多いだけで、安定感は抜群。味方打線次第では、まだまだ逆転の目も残されている。

 いずれにせよ、当確ラインは12~13勝あたりか。まずはその勝利数をクリアすることが新人王への必須条件となりそうだ。

上杉純也/フリーライター

上杉純也/フリーライター

出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーのライター兼編集者に。ドラマ、女優、アイドル、映画、バラエティ、野球など主にエンタメ系のジャンルを手掛ける。主な著作に『テレビドラマの仕事人たち』(KKベストセラーズ・共著)、『甲子園あるある(春のセンバツ編)』(オークラ出版)、『甲子園決勝 因縁の名勝負20』(トランスワールドジャパン株式会社)などがある。

セ・リーグ新人王争いが白熱!最有力の巨人・戸郷vs広島・森下、意外な“共通点”とはのページです。ビジネスジャーナルは、スポーツ、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!

関連記事