アメリカンフットボールの学生日本一を決める「甲子園ボウル」が12月13日、甲子園球場で開かれ、関西学院大フロンティアーズが日本大学フェニックスを42対24で破り3連覇した。両校の対戦は2018年5月の定期戦で起きた例の「悪質タックル事件」以来2年半ぶりだった。事件前年の「甲子園対決」は日大が勝っていたので、関学にとってはリベンジでもあった。
この試合、関学は3TDを決めたMVP(最優秀選手賞)に輝いたRB三宅昴輝選手の走りや、320ヤードを稼いだ司令塔役のQB奥野耕世選手の鋭いパスなどが光った。日大はQB林大希が前の試合で肩のじん帯を断裂していて力を発揮できない不運もあったが、RB川上理宇選手が78ヤード独走するなど見せ所もつくった。
林は試合後、「監督はエースはお前だと言って出してくれました。4年間本当に苦しかったが、自分をほめたい」と男泣きした。林は1年生の時、甲子園ボウルに出場してMVPに輝いていた。同じ4年生の関学・奥野は2年生の時に日大のDL宮川泰介選手(22)からアンフェアなタックルを受け、全治3週間のけがをしたが幸い後遺症などもなく、その後もエースとして君臨。この日は試合開始から3分でミドルパスを決めて、先制TDに結びつけた。その後、日大に逆転されたが、的確なパスを次々に決めてTDに結び付行けて押し切った。奥野は2度目のミルズ杯(年間最優秀選手)を受賞した。
試合後に林と対面して「ご苦労さん」と握手してねぎらいあった2人は、卒業後の進路などについて語り合ったという。
先輩や後輩の支え
奥野は「最終学年で日本一になれて嬉しかった。日大と元気な姿で戦うところを見せるのが恩返しと思っていた」などと話したが、事件当時はマスコミも怖くなりフットボールをやめようと悩んだ時期もあったという。試合後、筆者がそれを向けると「僕だけでは精神的にきつかった。先輩や後輩に支えられました」などと答えていた。
一方、日大の4年生の時、内田正人前監督や井上奨前コーチの指示で「悪質タックル」をしたと明かしていた宮川は奥野や関学に謝罪し、今春から富士通フロンティアーズの選手(DL)としてフットボールを続けている。奥野や関学へのコメントを求めたが「いろいろあるので難しい。元気で頑張っています」(同チームの常盤真也ゼネラルマネージャー)。
傷害事件にまで発展した事件は、内田前監督と井上コーチについて「タックル指示の証拠がない」と不起訴になった。しかし、日大フェニックスは長期の出場停止処分などで苦難の道を歩み、這い上がって学生頂上決戦に臨んでいた。
関東学生連盟から永久追放された内田前監督の後任となった橋詰功監督は「選手は人として成長してくれた。卒業していった選手も」と涙顔でねぎらった。
一方、富士通は15日のジャパンXボウルでは得点の少ない試合でオービックに守り切られて敗れ、1月3日に東京ドームで学生王者の関学と日本一を争う「ライスボウル」の出場権を逃してしまった。
勝っていれば奥野、宮川の対決も見られる可能性があった。関学大の大村和輝監督はライスボウルへの抱負を聞かれて「ライスボウルあるんですか」と剽軽にとぼけて見せた。とはいえ、12月14日付けスポーツニッポン紙面によれば、関学大前監督の鳥内秀晃氏は「学生と社会人は近年、戦力差が顕著で危険」として「安全第一で開催方法を真剣に考え直さなくてはならない」と警鐘を鳴らし、運営面に注文を付けている。
「悪質タックル」は、小柄な奥野がパスした直後に脱力していたところに100キロを超える宮川が疾走して後ろから体当たりしたため、奥野は地面にもんどり打っていた。相手が来るぞと構えておらず筋肉が弛緩している時のこうした衝撃は極めて危険で、奥野が脊髄損傷で半身不随などになりかねない危険なものだった。
奥野の進路は未定だそうだが将来、社会人選手として2人が対戦する日があるのなら、今回の試合のような「良質な戦い」が見たいものだ。