確かに、最近では新卒が入社した途端に、転職エージェント(人材紹介会社)に登録――などという現象も、もはや当たり前になっている。
それほど身近な存在となった人材紹介会社だが、数百社ある同業種は玉石混交。気をつけて選ばないと、痛い目に遭うこともある。
失敗を押し付けるためだけに転職させられた
ITセールスの香山由香さん(仮名・34歳)は、”悪徳” 転職エージェントに引っかかったひとりだ。その顛末をみてみよう。
「私がダマされた人材紹介会社のHPを見ると、この不況下にもかかわらず、すごく良さそうな転職案件がズラリ。この会社は業界に凄いコネがありそうだと期待して、門戸を潜ったんです。ところが、私の目を引いたその案件は、すでにほかの誰かに決まってしまったという。仕方がなく、似たような転職先を探してもらったのですが、これが大外れ。人生計画が完全に狂いましたね」(香山さん)
転職先のソフトウェア会社ではマネージャーとしての肩書を与えられた。初めての管理職に浮かれたのも束の間…その椅子は、半年に1回はコロコロ人が替わる”魔のポジション”だったのだ。
「まず、上司が朝っぱらから怒鳴り散らす、机を蹴る、恫喝するなんて当たり前の極端なパワハラ職場。その上、ずっと前にいた前任者とその上司が、提携する販売代理店との関係を無茶苦茶に悪化させていたため、私がひとり頑張って代理店に『買ってください』と頭を下げたところで、にっちもさっちもいかない。誰が来ても”仕組み的”に売れない部署だったのです」(同)
私は、「売れない理由」を押し付けられるためだけに、転職したようなもの――。
香山さんはそうため息をつく。
前任者はなぜ辞めたのか? きちんと確認しなかった香山さんにも落ち度はあるが……。
「あの人材紹介会社の担当者が、『こんなにいい会社はない』『あなたが成長できる場はここだ』とあまりに熱心に言うもので、すっかりダマされちゃいました。ほかの部署の人に聞いた噂ですが、どうやらそのパワハラ上司と人材紹介会社の担当が結託して、上司はその担当からキックバックをもらっているらしいのです」(同)
人材紹介会社の報酬は、年収の25~35%
人材紹介会社は、クライアント企業に人材を紹介し転職させれば、報酬として、その転職者の初年度年収の25~35%を受け取る仕組みだ。つまり、その転職者の年収が1000万円なら、報酬は250~350万円と相当デカい。
だから、人が定着しないポジションにコロコロ人をすげ替えて、そのたんびに金をふんだくろうと企む紹介会社があるのも、そこからのおこぼれにあずかろうとする不届き者上司が存在するのも、まんざら噂レベルじゃなさそうなのだ。香山さんが続ける。
「そのパワハラ上司自身が、3~4年おきに転職を繰り返す『転職ゴロ』みたいな人だったので、『自分がクビになったらなったで、次に移るまで』とタカを括っていたのかも。私が引っかかった”悪徳”人材紹介会社の転職案件も、今から考えると『おとり』みたいなもので、そもそも存在しなかったのかもしれません」
転職活動していないのに、勝手にエントリーさせられた
こんな被害ケースもある。
金融機関の営業マン澤田雄太さん(仮名・35歳)は、「転職活動もしていないのに、勝手にほかの企業にエントリーさせられていた」という驚きの過去を持つ。
「数年前の話ですが、ある人材紹介会社から電話がかかってきて、『あなたに興味を持っている会社がある』と言うんです。その時、僕は自社HPの『優秀者インタビュー』に出ていたので、その内容が先方の気に入ったっていうんですよ」(澤田さん)
ヘッドハントされる――「選ばれる」気持ちはプライドをくすぐられるから、悪い気はしない。
「そこで、人材紹介会社の人が『履歴書を書いてくれ』というんで、つい書いて渡しちゃったんですよ。でも、転職する気なんてサラサラなかったので、エントリーしないでくれと念を押したのに……」(同)
その約束はアッサリ破られ、人材紹介会社の担当者は、複数の企業に澤田さんの履歴書を配り歩いていた。その事実は、偶然判明したとう。
「友達の人事マンがたまたま、僕の履歴書を見たって電話してきたんです。あの時ばかりは、本当に驚きましたよ」(同)
当然、澤田さんはこの行為に激怒。人材紹介会社の担当者を呼び出し、その場で「登録」を外させたという。仮に、会社に「澤田は転職活動している」なんて誤解が広まっていたら、「出世どころか延命までアヤしくなっていた」とボヤく。友達からの情報がなければ、今頃どうなっていたか、わかったもんじゃない。
いきなり音信不通に……
ありがちなケースとしては、こんな例もある。システム会社のSE、花田正義さん(仮名・32歳)の話だ。
「ある人材紹介会社に登録したら、『ここは素晴らしい会社です』『あなたを面談した瞬間から、ここにピッタリだなと思っていました』『社長とアナタは息が合いそうだ』などと言われ、ある会社を強烈プッシュされました。初めての転職なもので躊躇もしましたが、『そこまで言うなら…』と、いざ面接を受けたんです。ところが、それから1カ月、2カ月たっても、担当者からの連絡はありゃしません」
メールしても返事ナシ。電話しても不在。そこで、その担当者の上司に、「どうなってるんだ!」とクレームをつけた。すると……。
「あんだけ持ち上げといて、先方から落とされたっていうんです。僕としちゃあ、担当者があそこまで言うからには、完全に受かってると思って、今の仕事も結構おざなりにやっちゃっていたんです。そんなことなら、早く言ってくれよって話ですよ」(花田さん)
“悪徳”人材紹介会社は、情報を公開しない
こんな具合に、「”悪徳”人材紹介会社」に振り回された人はたくさんいる。似たような被害に遭わないためにも、紹介会社はよく目を凝らして選びたい。
人材スカウト会社、クライス・アンド・カンパニー代表取締役社長の丸山貴宏氏が言う。
「人材紹介会社は大手から一人でやっているようなところまで、何百社とあり、そのクオリティは玉石混交。転職を希望される方は、ご自分の人生を左右する『パートナー選び』だと考えて、よくよく精査する必要があります」(丸山氏)
では、いい紹介会社と悪い紹介会社の見分け方は?
「当たり前ですが、いい人材会社とは、登録してくださる人材を大切にする会社。そういう”まっとうな思想”を持つ会社は、まずHPのつくり込みからして違います」(同)
具体的には、「会社情報がディスクローズされていればいるほどいい会社」といえる。
社長を筆頭に、転職コンサルタント一人ひとりのプロフィールまで記載されているといった具合だ。