W杯予選、裏MVPはザックをしびれさせた遠藤の”自然体”
多分、長谷部誠キャプテンの提案と思われるが、帰りの飛行機で同乗の満席の日本人サポーターたちに、ザッケローニ監督と長谷部があいさつし、左右の通路をほかの選手を従えて、最後尾の席まで握手をして歩いた。このような姿勢は、これまでの代表チームで見たことはなかった。
以前私がかかわったJリーグチームが、天皇杯を制し「ビクトリーウォーキング」をした時のことだ。選手のほとんどが手を上げるでもなく頭を下げるでもなく、雑談をしながらスタンドを通りすぎるのを見たとき、「それまでの声援を返してくれ!」と腹が煮えくり返る思いをしたことがある。
動物的闘争心は必要だ。しかし、人間的な感謝の気持ちという「基本的な感情」なしに、真の希望とか勇気、団結心という感情が湧き起こることはない。親を大事にしない一流のセールスマンはいないのと同じだ。
チームの「和」についても、同じことがいえる。このチームの誰かが得点したときのメンバー全員の喜びようで、「和」を確認することができる。
本田、ケガなしに4点はなし
この3連戦のMVPは、文句なく本田圭佑選手だ。右ひざの半月板損傷が手術で治ったと思ったら、今度は左足の太ももの筋肉の傷、合計10カ月の長いケガとの闘いが終わったとたん、以前よりも心・技・体が大幅に成長を遂げていたのは、一体どうしてなのか?
いちいち場面を挙げないが、彼は前よりエゴイスティックになっているように見える。その一方で、囮(おとり)になったり、アシストしたり、ボールをキープしてタメをつくったり、前よりよほど献身的だ。これは大人になったとか角が取れたというものではない。ますます利己的で「自己主張人間」はそのままだからだ。しかし、こうした面だけでなくなったということだ。その上、結果を出すから、PKを横取りしても利己的でも嫌われない。
「ケガがなかったら、今のオレはない」という彼のプラス発想は超一流だ。彼はプラス発想をバネにして行動する。彼は骨と筋肉の傷を、周りの筋肉を強化することによってカバーした。つまり、彼の筋肉はケガの前に比べて数段強くなった。特に利き足でない右足のほうが。
それから、本田のビッグマウス+利己的でも献身的な行動+得点やアシスト、つまり「言葉=行動=結果」この3つが同時に達成されている。これは、ますます彼自身の自信を強め、周りの信頼を強めて運命を開く。
左遷で落ち込み、一匹狼で孤立するか存在感がまるでないビジネスマンがいたら、彼のこの言行く一致こそ手本だ。
香川、専門バカでは天下を取れない
その本田の4点に対して、香川真司の3試合1点は淋しい。本来のポジションでないのはわかるが、得意の、「相手が密集しているところへ斬り込むドリブル」がすべてブロックされた。世界でこれだけこのスタイルが有名になると、さすがに相手も対策を打つ。