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ブラック企業アナリスト・新田龍「あの企業の裏側」第5回

IBM恐怖のリストラ、メディアや裁判所も黙る華麗な技術

文=新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役
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IBM恐怖のリストラ、メディアや裁判所も黙る華麗な技術の画像1日本IBM本社
(「Wikipedia」より)

「ブラック企業アナリスト」として、テレビ番組『さんまのホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでもお馴染みの新田龍氏。計100社以上の人事/採用戦略に携わり、あらゆる企業の裏の裏まで知り尽くした新田氏が、ほかでは書けない、「あの企業の裏側」を暴く!

※前編はこちら
『“不祥事量産”IBMリストラ面談の恐怖「君の妻に電話する」』

 IBMという会社をグローバルな目線で見た場合、日本IBMの位置づけは「落ちこぼれ」といっても過言ではない。2001年に1兆7,075億円という過去最高の売上高を達成して以来、11年連続で売上は減少。この10年で、売上高、営業利益、経常利益はちょうど半分になってしまった計算だ。

 一方で、米国IBMの11年度の業績は、売上高1069億ドルに、純利益は159億ドル。日本とは逆に、この10年で売上高は約25%アップ、純利益は約2倍という成長を遂げている。この状況下では、日本IBMの存在感も発言力も着実に低下しているのは明らかである。

 同社社長は今年5月に交代し、ドイツ人のマーティン・イェッター氏が就任した。外国人がトップになるのは56年ぶりのことであり、本国ドイツで「コストカッター」と呼ばれる辣腕を振るい、業績を立て直してきた実績を持つ人物だ。当然日本においても同様の役割を期待されているとみられ、社員たちは戦々恐々としている。

 同社は米国IBMの手法に倣い、業績下位15%の社員を対象にリストラを実行している。ちなみにこのシステムは日本IBMに限らず、外資系企業なら比較的広範にみられる光景、という印象があるかもしれない。同時に、思慮深い方ならこんな疑問をもたれることだろう。

「日系企業も外資系企業も、日本で活動している以上、同じ労働基準法が適用されているはずだ。なのに、なぜ外資系だけ社員を簡単にクビにできるのか?」

 それには、こんなウラがあったのである。

 そもそも「リストラ」=「クビ」というイメージがあるが、具体的にはいろんな手法がある。

 まず「解雇」というやり方が思い浮かぶ。労働契約の終了を、会社側からの一方的な意思によって通告することだが、これは日本の強力な法規制のもと、なかなか簡単に実行できないのが現状だ。ご存じの通り、解雇を行うためには「4要件」という慣例が存在し、そのいずれが欠けても「解雇権の濫用」となり、無効となってしまうためだ。具体的には次のような条件である。

(1)人員整理の必要性
 
 整理解雇を行うには、相当の経営上の必要性が認められなければならない。つまり、経営危機下でなければ認められないということだ。

(2)解雇回避努力義務の履行
 
 正社員の解雇は「最後の手段」であり、その前に役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等によって、整理解雇を回避するための相当の経営努力がなされ、「もう解雇以外に手立てがない」と判断される必要があるのだ。

(3)被解雇者選定の合理性

 人選基準が合理的で、具体的人選も公平でなければならない。「辞めさせたいヤツ」を名指しすることはできないというわけだ。

(4)手続の妥当性
 
 事前の説明・協議があり、納得を得るための手順を踏んでいなくてはいけない。

 すなわち、たとえ社員がヘマをやらかしたとしても、ドラマやマンガのように「お前はクビだ!」なんてとても言えないわけだ。でも、実際にリストラは実行できている。そのカラクリは、「解雇」ではなく「退職勧奨」をしている、という点にあるのだ。

●「辞めたほうがキミのためだ」と諭す

 退職勧奨とは社員に「辞めろ!」と迫るのではなく、「今辞めると、これだけのメリットがあるよ」といって、文字通り「退職を促す」ことをいう。会社からの一方的な処分ではなく、本人の合意があって成立するものであるから、違法性はない。しかも解雇の場合は「被解雇者選定の合理性」をとやかく言われてしまうが、退職勧奨の場合は「適正に下された低評価」をもとに行われるので合法なのだ。

 したがって、もともとしかるべき評価制度が設けられていて、その結果として「キミは業績が悪いから、勧奨の対象になっているんだよ」と告げるのは違法ではない、ということなのである。

 外資系がよくやる「クビ」というのは、言葉を換えれば「非常に強力な退職勧奨を行う」ということであり、解雇という形式ではなく、社員との交渉によって「なんとしてでも退職の合意を取り付ける」という「合意退職」に持っていくというやり方なのである。

 そこには綿密に練られた仕組みと布石があり、仮に裁判に持ち込まれたとしても負けない形になっているのだ。事実、08年のリストラで「退職を執拗に迫られた」として社員が同社を訴えた裁判があったが、先ごろ東京地裁の判断で「違法性はない」と判断された。

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

労働環境改善による企業価値向上支援、ビジネスと労務関連のこじれたトラブル解決支援、炎上予防とレピュテーション改善支援を手がける。労働問題・パワハラ・クビ・炎上トラブル解決の専門家。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。著書25冊。

Twitter:@nittaryo

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