老朽化の東京都庁に780億円!? 公共事業バブルでゼネコン倒産続出?
「週刊ダイヤモンド 2013/2/9号」の特集は『公共工事バブルで踊るゼネコン』だ。無駄な公共事業削減のために長く暗いトンネルをさまよい続けていたゼネコン。だが、公共事業を軸に経済再生を掲げる安倍内閣の誕生により、ようやく光が差す出口が見えつつあるが、その先にあるのは大金がもたらされる「楽園」なのか「蜃気楼」なのか、という特集だ。
公共工事バブルが「楽園」というのは政権交代で公共工事バブルが到来しているからだ。補正と当初予算合わせて約11兆円の公共事業が決定し、建設業界は沸いている。例えば、これまでの公共事業の削減を進めた民主党政権の3年間で、和歌山県内では約300社の建設業者が姿を消した。自民党に政権交代し、近畿自動車道紀勢線の未開通部分の開通工事は始まったのだ。2015年度の供用開始に向けて、急ピッチで工事は進むが、総事業費は1970億円に上る。
さらに和歌山県では、自治体によっては高台移転構想が持ち上がる。これまで、東海・東南海・南海地震の同時発生を想定した既存の津波ハザードマップで被害軽微とされてきた沿岸部の各自治体が、昨年8月末に内閣府が発表した「南海トラフ巨大地震」の被害想定では、大津波に巻き込まれるとされてしまった。内閣府の想定では市役所どころか学校など指定避難施設の多くが津波に呑み込まれることが明らかになったのだ。和歌山県田辺市が高台移転を試算したところ、用地取得費用も含め、約69億円と現在地での耐震改修の約20億円に比べ、3倍以上に膨らむという。多くの仕事がゼネコンや建設業者に舞い込むのだ。
こうした状態に、社員が5人に満たない、ある建設業者も周りから借金をしてショベルカーとダンプカーを買い揃え、また、別の業者はリストラした技術者に頭を下げ復職を求めているのだという(記事『Part1 政権交代で公共工事バブル到来』)。
また、昨年12月に中央自動車道笹子トンネル事故をきっかけに老朽化したインフラの更新という問題も、建設業者にとってはビジネスチャンスだ。トンネル、高速道路にとどまらず、全国津々浦々に広がる大小無数の橋梁、港湾、そして学校といった公共施設も対象となる。
今後、深刻な問題になりそうなのが、バブルの遺物、「バブルの塔」と揶揄されながらも1569億円の巨費を投じて建設された東京都庁舎だ。1991年に開庁から20年余りを経て、設備の老朽化が目立つ。現在、1000基に及ぶ空調の大半は耐用年数を超え、トイレの水道管の破裂や絶え間ない雨漏りといった外観からは想像できないトラブルが続出しているのだ。バブル時代に修繕・維持コストを無視して作った弊害がここにきて現れているようだ。
都は2月中にも具体的な更新工事計画をまとめる方針だが、工事が完了する2018年度までの総工費は概算で780億円となりそうで、この金額は建設費の半分というバカ高いものだ。財源について都は、所有地売却などでまかない「極力、一般財源を投入しない」方針だというが、その原資も税金であったことは代わりがない。更新工事でも建設業者だけが儲かる、まさに「バブルの塔」が健在なのだ。
公共工事バブルが「蜃気楼」になりそうなのは、コスト高の直撃を受ける企業だ。リストラで作業員が大きく減ったにもかかわらず、土木工事急増に伴い求人が増加。人手不足のためにコストが急上昇している。また、高台移転に使われる盛り土も不足し、資材不足になっているのだ。
これから自民党の国土強靭化計画で、全国で公共工事が始まるが企業の規模によってはコスト高で、利益が思うように出せず、資金繰りにあえぐ企業が出始めるのではないかという(記事『国土強靭化のボトルネック ゼネコン襲う人手・資材不足』)。とくに苦しいと目されるのが「関西地盤・中堅・建築主体」の三拍子揃ったゼネコンだ。復興工事の大半は東北の土木工事、その恩恵がないままにコスト高に見舞われてしまうからだ。破たんに追い込まれてしまうゼネコンが出てきかねないという。
(文=松井克明/CFP)