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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第16夜】

「犯された」「援助交際」家出少女の孤独をテレビはどう映すか

「犯された」「援助交際」家出少女の孤独をテレビはどう映すかの画像1
「足成」より

ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:2月10日放送『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)

 「間が多いな」と思った。町の雑踏やノイズが聞こえる。無音という意味ではない。テレビの視聴状態によっては聞こえないかもしれないが、そこに音は存在する。

 このような「間」はテレビでは珍しい。被写体が発する言葉には常にテロップが重なり、ナレーションはただの説明でしかない。数十分目を離していても分かる「親切さ」はテレビの特徴だが、最近は度が過ぎないだろうか。番組制作者に聞いたことがあるが、「台所でネギを切ってても分かるような演出を心がけろ」というのがテレビの常識だそうだ。なるほどな、と思う。それくらいの心意気がなければ視聴者の興味を引きつけるのは難しいのだ。

 しかし、その方法論は深夜や昼間の番組にも当てはめていいのだろうか。まあ僕のようなぐうたらな人間は日曜の14時に遅めの昼飯を作ることもあるが、ほとんどの人は食べ終わった頃だろう。夜食にラーメンを作ることも多々あるが、そういう時間に過剰な説明ばかりの番組を見るのはちょっとうるさくも感じる。視聴率を最も争うゴールデンタイムならそれもアリだが、静かな番組をたまには見たい。

 そんなことを常々思っていたから『ザ・ノンフィクション 崩壊の音が聞こえる~さ迷う家出少女たち』の静かな演出に興味を惹かれた。山手線から撮られた渋谷の風景。オーバーラップが重なり、林原めぐみの「渋谷、センター街……」という声が聞こえる。そこに路上に座り込み、アンケートを取る女性の姿がある。彼女たちの周囲を何人もの人々が歩き回るが、一切気にも留めない。

 近いのに、断絶。そんな関係性に相応しい答えが画面を覆う。

「死にたい、消えたいと思ったことがある65%」「自傷行為をしたことがある33%」。

 この数字は、若い人ほど「リアル」に感じられるのではないか。と、ここで思うのは、よくある『ザ・ノンフィクション』の演出では番組を見ている層と思われる日曜の昼を持て余しているおじさん、おばさんでも見やすい「最近の若者は~」的な上から目線になるのではないか、という危惧。確かにそっちの方が分かりやすい。構造も明確だ。一時間弱、不幸な人々を見て「けしからん!」というカタルシスを提供すれば良いのだから。が、今回は違った。『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ同様、聞いてるこちらまで鬱々としてくる演出にブレはない。

 元暴走族のライター橘ジュンは家出少女と会い、話を聞き、助けることを仕事としている。彼女が記録するノートには「犯された」「援助交際」「生理こない」といった生々しい言葉が並ぶ。番組では彼女が出会った二人の少女を紹介する。19歳のかおるは性的虐待を受け、火のついたタバコを押し付ける父から逃げ、現在は30も離れた男と生活を共にしている。17歳のみかは義理の父とケンカをし、東京に逃げた。そこで新宿歌舞伎町で男に声をかけられ、犯される。何度かメールのやり取りをしていたジュンに助けられて、その場を離れることに成功するが、彼女は妊娠をしていた。

 ジュンは怒りを隠さない。「親の態度も、夜の町の男たちにも悔しさが込み上げて来る」と声を荒らげる。「でも私にはどうにも出来ないから頑張ってとしか言えない」。モザイクで隠された少女の顔だが、とても納得しているようには見えなかった。

 番組の距離感は終始冷たい。堕胎について「親には言わない」と言うみかと「それでもいい」と認めるジュン。男性ディレクターは「相談も出来ないのか」と戸惑いを隠せない。時間を待っていても仕方がない。ジュンに出来ることは中絶の手伝いをすることと、警察に被害届を出すことだけ。通常の『ザ・ノンフィクション』ならばもう少し過剰に演出をしたり、エピソードを増やす所だが、珍しくジュンと二人の少女との関係性を描くことにのみ終始していた。かおるとの別れのシーンが印象的だった。「また東京で会おう」と手を差し出すジュンだが、かおるは首を振る。理由も言わない。一人、夜の町へと歩き出す。後にジュンの元に届いたメールには「つないだら離さなきゃいけないから握手はしないの」と書かれていた。

「崩壊の音が聞こえる」にはタイトル通り、崩壊までは描かれない。だが、このままでは崩壊する、という確実な予兆が見えた。そこに対する答えはない。安易な答えを避けた構成と演出に共感する。
(文=松江哲明/映画監督)

BusinessJournal編集部

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