うどんやパンが激安に!シェールガス革命で日本の食卓や企業に影響
「週刊東洋経済 2013/2/16号」の特集は『シェール革命で日本は激変する』だ。
現在、米国でシェールガス革命が起きている。地下深くのシェール層に含まれているシェールガス(天然ガス)と、シェールオイル(原油)の存在は約30年前から知られていたが、3年ほど前に米国のベンチャー企業がシェールガスの回収技術を確立して生産量が急増、2010年には米国はシェールガス生産量で世界のトップに躍り出た。11年にはさらに生産量が倍増した。現在の北米市場の天然ガス価格は2008年の価格水準の6分の1にまで下落したほどだ。
昨年11月には、国際エネルギー機関(IEA)が歴史的な予測を発表。米国は17年までにサウジアラビア、ロシアを抜いて、世界最大の産油国になり、20年代には原油まで自給自足ができるようになる。エネルギーの完全自立、これが米国と世界経済の構造をどう変えるかが、中長期的なテーマになってきている。
PART1『現地ルポ/シェール革命の最前線から 石油・ガス完全自給へ向かう米国』では、現地の経済効果を紹介している。ノースダコタ州ウィリストン市は原油増産ラッシュに沸いているが、ウィリストン市を含むウィリアムズ郡の失業率は昨年11月現在0.9%。平均賃金は前年比19%増と全米平均を3割も上回っているほどだ。ノースダコタ州(3.2%)、ネブラスカ州(3.7%)、ワイオミング州(4.9%)……、失業率の低い州は油ガス地帯を擁している州だ。一方、金融・住宅バブルの影響が大きかったニューヨーク州(8.2%)、カリフォルニア州(9.8%)と回復が鈍い。金融からエネルギーへの米国経済が大きくシフトを変えていることが、この数値から見て取れる。
このシェール革命の恩恵に日本もあやかることができそうだ。記事「日本がシェール革命に乗る第一歩 米国のLNG対日輸出 3月にも第1号認可へ」によれば、日本はシェールガスを液化し、LNG(液化天然ガス)として輸入することになるためにコストが高い。仮に今の米国の指標価格で輸入できるなら、液化コストや輸送コスト込みでも現状の平均輸入価格よりも3割は安くできるという。
すでに米国では20件を超すLNG輸出プロジェクトが米国政府に輸出認可の申請を行なっている。自由貿易協定(FTA)締結国への輸出はほぼ承認済み。FTA未締結国向けの輸出も日本企業が関与していないプロジェクトが1件承認されている。
申請順からみると、次は日本の大阪ガスと中部電力が液化加工契約を結んでいるテキサス州フリーポート市のプロジェクトが承認される見通しで、認可は3月か4月になりそうだという。また、カナダでも三菱商事などLNG輸出プロジェクトが進行中で、2019年には生産を開始する予定だという。
PART2『化学の再編加速、商社・鋼管・天然ガス車に商機 日本に波及するシェール革命』では日本の企業がシェール革命から受ける影響を紹介しているが、興味深いのは記事『カギを握るのは米国のバイオエタノール政策 シェール革命で穀物価格は長期で下落も』だ。シェール革命により、バイオエタノールの必要性が低下しつつある。バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビなどの植物原料から生成されるエタノールで再生可能エネルギーの1つだ。ガソリンなど他の燃料に混合して利用する。
バイオエタノールの商業化に積極的だったのは、米国。2005年、トウモロコシの一部をバイオエタノール向けに利用することを義務づけた。石油に比べて、バイオエタノールの生産コストは高いが、約60億ドルもの補助金をエタノール製造会社に出すことで、石油並みの価格に引き下げているのが現状だ。
国内農家支援という意味合いもあるために、米国がバイオエタノールの使用義務を簡単に縮小・撤廃する可能性は低いが、長期的にはトウモロコシ価格が下落することは避けられない。下落すれば、農家はトウモロコシから大豆や小麦に転作するようになる。すると、それぞれの供給量が増加し、価格が下落するのだ。
この価格下落は日本にも大きな影響を与える。パン、麺、食肉などの日本での価格が軒並み下落することになるのだ。
シェール革命は日本の食卓にも影響を与えそうだ。
(文=松井克明/CFP)