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AIJ社長「仕方なく虚偽を認めた。失敗は成功のもと」…韓国に隠し口座疑惑も

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『巨額年金消失。AIJ事件の深き闇』
(角川書店/九条清隆)
年金市場を無茶苦茶にしておいて、この言い草はなんだ。怒りを通り越して開いた口がふさがらない」

 信託銀行幹部がこう激怒するのは、1000億円以上の年金資産を喪失させながら、「迷惑をかけた顧客に資金を返したい。『失敗は成功のもと』とも言う。もう一度、運用業をやりたい」と厚顔無恥な言動を繰り返す、浅川和彦AIJ投資顧問社長のことだ。

 昨年6月に詐欺と金融商品取引法違反の罪に問われ、逮捕された浅川氏。公判中の2月中旬に日本経済新聞のインタビューを受け、事件の顛末を語っている(2月19日付同紙電子版に掲載:記事『AIJ・浅川社長「損失取り戻そうと思っていた」』)。驚くのは、その姿勢だ。

「2012年に1月末に、証券取引等監視委員会の検査に高橋さん(成子被告、AIJの経理担当役員)が時価を水増ししている実態をしゃべってしまった。僕は、検査で話さずに押し通せると思っていた。でも、高橋さんが話したらもう仕方がないなと。2月1日に虚偽の運用実態を認めた」

 証券取引等監視委員会が虚偽の運用実態をつかんだのは、高橋氏が吐露したため、仕方なく認めたもので、浅川氏は隠すつもりであったというのだ。しかも、「4月に130億円ぐらいの新規契約が決まっていた。『社長はもう一度勝負しようとしていたんですね』って検査官にも言われましたよ」と言っている。これには「年金運用は博打ではない、いわんや勝負するというような性格の資金ではない」と、前出の信託銀行幹部は怒りが収まらない。

 しかも、浅川氏は検査中の昨年2月、韓国に渡航している。日経のインタビューでは、「韓国行きはなぜか、隠し口座があったのではないか」と問われ、「単に遊びに行っただけ、どのみち、これからしばらく、忙しくなるのだろうから、最後に行きたいねって。弁護士に相談し、当局も知っている。ソウルでキムチ鍋を食べた。韓国に口座があることは一切ない」と述べている。本当にそうなのか?

●いまだ解明されない使途不明金

 2月27日に東京地裁で開かれた浅川氏ら3人の被告公判では、検察側の指摘で、証券取引等監視委員会による検査開始後の昨年2月、AIJの銀行口座から1億500万円を自身の口座に送金したことが明らかになっている。浅川氏もこの事実関係を認め、「1億500万円のうち2000万円を公認会計士に渡した。3000万円は妻子や交際相手に渡したり、自分の生活費などに使ったりした」と説明したが、残りの5500万円の使途は明かさなかった。資金の流れは完全に把握しきれていない。

 浅川氏は損失が表面化しないよう、タックスヘイブン(租税回避地)である英領ケイマン諸島に設定した私募投信の傘下に14もの子ファンドを設け、損失の付け替えを行っていた。含み損を抱える有価証券等はファンド間で転売され、年金資金の受け皿となる新規の募集ファンドには損失が生じない、まっさらな時価が表示される複雑な資金の流れは、金融庁の検査もすり抜けた。

「新規募集は正しい値段。それ以外は水増ししたNAV(基準価額)だった」と国会で平然と言ってのける浅川氏の態度には、唖然とさせられるばかりだ。

また、AIJは顧客からの解約申し入れに応じる際に、年金基金間で持ち分を転売する方式を取ることで、ファンドが順調に運用されているように見せかけた。その一方で、損失の実態が記載された監査済みファンド決算報告書は浅川氏が握りつぶし、基金からの開示要求は法律を盾にはねつけた。

 AIJ投資顧問の餌食となった企業年金は84。その9割は中小・零細の同業者が集まる「総合型」の厚生年金基金であった。厚生労働省はAIJ事件を契機に、10年をかけて厚生年金基金の制度を廃止し、基金の損失を公的年金で補填する案を検討している。そうなれば、AIJ事件のツケは、一般のサラリーマンが加入する厚生年金の保険料引き上げとなって跳ね返ってくる。

「私腹を肥やすことはしていない。僕はそんなに欲はない」と語る浅川氏。事務所も兜町周辺に移し、再起を目指しているといわれる。企業年金基金制度を廃止に追い込みかねない事態を招いた張本人は、本当に反省しているのだろうか。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)