経済誌の株投資特集は「売り」のサイン!? 5月末に株特集が乱発されるワケ
「週刊東洋経済 6/1号」の特集は『まだ間に合う! 日本株大作戦』だ。5月23日、前日の日本銀行・黒田東彦総裁の記者会見を手掛かりに前場で1万6000円近くまで上がった日経平均株価は、後場に反転。長期金利の上昇、中国の景況感悪化というニュースに前日より1143円安い1万4483円で引けたこの「5・23ショック」以来、日経平均株価は大きく値を下げ、1万3000円台前半になっている。株価下げ要因となる、円高も波乱含みで、半年間の蜜月関係を築いてきたアベノミクスバブルは終わった、そう指摘する声も多くなった。
今回の特集では「株価が調整に入った現在、これまでの相場はバブルだったのではないかと懸念する見方もある。だが、株式市場で使われている業績に基づく投資尺度で見るかぎり、まだバブルというには早いようだ」。しかし、「それはどんな株でも上がるということを意味しない。株価が年初から19倍まで上昇したガンホー・オンライン・エンターテイメントのような銘柄もあれば、PERが1ケタ台で低迷する企業も多い。これからの相場が二極化するのは避けられない。日本経済の構造変化に合わせて成長を遂げる企業と、そこから取り残される企業をいかに選別するか」。「異次元相場」に参戦する人にとって最大のテーマになる、選別する材料を検討しようという特集だ。
『「Part1」 株価はまだ上がるか、異次元相場を先読み』では、「アベノミクスに関する好材料には出尽くし感があるほか、14年4月の消費税率の引き上げが決まれば、一時的な景気後退を懸念する売りも出るだろう。多くの機関投資家が、7月の参議院選前後に調整を見込んできた。問題は、そこから先も上昇トレンドが続くと見るかどうかだ」として、14年4月までの重要日程を総点検している。年内は、国内的には、6月23日:東京都議選、7月21日:参議院選投開票日、10月には消費増税の最終決断が注目となり、国際的には、7月下旬:TPP会合、9月中:ドイツ総選挙、14年1月下旬にはバーナンキ米FRB議長任期満了といった日程が株価に影響を与えかねない。
外国人投資家の間では消費増税を先送りすべきとの声も多く、10月の消費増税の最終決断が重要なポイントになりそうだ。この決断の参考とされるのが、13年4-6月期の景気。つまり現在の景気で判断されるということだ。
『「Part2」 最新決算で完全解剖 本当に強い会社 四季報記者が先読み! 13年度企業業績』では、円相場の急落で日本企業の経営環境は激変。この激変を追い風にできる企業は、どこかを分析している。『「Part3」 異次元相場を生かす銘柄選び必勝ガイド アベノミクス相場で急浮上、注目テーマを総まくり』では、安倍政権の成長戦略のキーワードとして「チャレンジ」「グローバル」「イノベーション」「海外に勝つ」を挙げている……。
しかし、今回の株特集はまさに“経済誌のブラックジョーク通りになってしまった”との思いを抱かずにはいられない。ライバル誌になるが、「週刊ダイヤモンド 5/25号」の特集『経済ニュースを疑え! 報道現場の裏側を明かす』では、市場関係者やアナリストの間でしばしば語られる、ある“ブラックジョーク”を紹介していた。
それは「経済誌が株特集を発売した時には相場がピークを迎えている」というものだ。
この理由は、経済誌は株特集を5月初旬に集中する企業の決算情報をもとに作成することが多い。すでに株式市場では決算情報が発表された段階で、株価はその情報を織り込んでしまう。経済誌が店頭に並んだ時点では圧倒的に遅く、ピークを過ぎてしまっているのだ。
つまり、経済誌が株投資の特集を組んだら、それは「売り」のサインということなのだ。今回は、まさにそのブラックジョークが的中。東洋経済は、ダイヤモンドの言う通り5月初旬に集中する企業の決算情報をもとに特集を組んでしまった。
それでも、東洋経済は「円安基調の定着が確認されれば、企業の業績予想は上方修正される。それを手掛かりにPERが20倍程度まで上がり、日経平均が年末にかけて2万1000円に届く可能性がある」と見る。来年には欧米の景気も好転するという。こうした予想が実現することを期待したいのだが、株価予想よりも「株投資特集は『売り』のサイン!?」のブラックジョークが的中しているようでは、かなり心配になってくるではないか。
(文=松井克明/FCP)