女の浮気性が育むダイエットビジネス カギは“褒め合い”、体重・家賃連動シェアハウスも
『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ系列)などでおなじみの世代・トレンド評論家、牛窪恵氏。本連載では、8月23日に『男女1100人の「キズナ系親孝行、始めました。」』(河出書房新社)も出版した牛窪氏が毎回、賢くも楽しく生きる女子たちの“生態”を通じて、彼女たちが新しいマーケットやブームをつくりだしていく現実と可能性について探る。日本の将来は、女ゴコロしだい!?
なぜ夏になると、女たちは「痩せたい、痩せたい」と叫ぶのだろう?
答えはカンタン、肌の露出が増えるこの時期、少しでも“美ボディ”を見せたいと願うからだ。女性誌でも、例年この時期は「ダイエット特集」が組まれるのが“お約束”である。
ただその割には、すぐ挫折する女子も多い。20~30代女子に聞いたある調査でも、ダイエットを始めてから
・「3日坊主」 =12%
・「1週間で挫折」=17%
と長続きせず、1週間以内に挫折する割合(29%)は、男子の約2倍に上る(12年 ニフティ「何でも調査団」調べ)。
逆に言えば、長続きしないからこそ、新たなダイエット法が次々と登場。「今度こそは!」と、そのたびに勢いづく女子も多いのだろう。
●体重と家賃が連動?
そんななか、12年11月、大阪府吹田市に体重と家賃が連動した「ダイエット向けシェアハウス」が登場したのをご存じだろうか?
その名も「Beauty&Diet」。
女性限定のシェアハウスで、最大の特徴は、体重によって家賃が変わる「体重連動型家賃システム」だ。
「Beauty&Diet」も、基本家賃(4~6万円前後)は、一般的なシェアハウスと同様に「部屋の広さ」によって定められている。
ただ、入居者はさらに、3カ月に1回ずつ“体重”を測定。
・体重が1㎏減れば、家賃が1000円下がる
・逆に1㎏増えれば、家賃が1000円上がる
と、体重との連動によって家賃が変わる仕組み。
イマドキ女子にとっては、「痩せたい」と同じかそれ以上に切実な「節約したい」もかかわってくるこのシステム、否が応でも気合が入るだろう。
嗜好が似た“仲間”と暮らす家(シェアハウス)、である点も見逃せない。
実は、アメリカのベイラー医科大学が行った研究でも、ダイエットはひとりで地道に取り組むより、仲間と共にグループで実践するほうが成功しやすい、との結果が出ている。
すなわち、
・自分ひとりで、ダイエットに取り組んだ人
=3カ月で、平均約0.8kgしか痩せられなかった
・あるダイエットセンターで、仲間と一緒にダイエットに取り組んだ人
=3カ月で、平均約3.9kg減量できた
というのだ。
先の「Beauty&Diet」にも、トレーニングマシーンやエクササイズDVDなどが揃った、共有のエクササイズルームがある。ちょっとツラいエクササイズも、入居者同士で“励まし合い”ながら、取り組むことができる、というわけ。
さらに、「精神的にも強くなってほしい」との運営者側の意図から、シェアハウス内には
・ポテトチップス食べ放題
・コーラ飲み放題
といった“トラップ(ワナ)”も仕掛けられている、とのこと。ここでも、仲間がストップをかけてくれることで、踏みとどまれる女子がいるだろう。
●リフレッシュしながらダイエット
最近は「週末だけ」「半日だけ」など、短期間だけ励まし合って断食する「プチ断食」も、女子に話題のダイエット法。
ここでも“仲間”がキーワードだ。
「伊豆 やすらぎの里」(静岡県伊東市)は、温泉付きの断食道場。
・断食コース
・野菜や果物食のデトックスコース
・健康的な食事が摂れる食養生コース
などがあるが、いずれも滞在中は温泉でまったり休んだり、マッサージや整体などの施術を受けてリフレッシュすることが可能だ。
断食というと、かつては「ハード」「山ごもり」といった“修行”を思い起こす人も多かったが、昨今若い女子に流行の「プチ断食」は、まったく印象が違う。仲間と励まし合いながら「ムリなくダイエットする」といったイメージ。もっとソフトで楽しい、レジャーの一環ともいえるだろう。
断食道場「伊豆 やすらぎの里」も、8割が女性客。個室や2人部屋もあるが、「知らない人どうし、2~3人の相部屋も人気」だと、同代表取締役社長の大沢剛さん。
「『ダイエットしたいけど、なかなか自分ひとりではできない』とやってくる女性も目立つ。『同じ目的を持った人たちが集まるので、励まし合える』との声も、非常に多いですよ」という。
一方、今年5~6月には、(株)大田原ツーリズムが主催する女性限定ツアー「プチ断食道場」も人気を呼んだ。
大田原ツーリズムは、栃木県大田原市でグリーンツーリズム事業を行う、民間企業。今年5~6月の毎週末、廃校になった小学校を利用し、「プチ断食道場」を開催した。
毎回、定員より10人以上多い応募があり、県内外から女性たちが集結したと、同広報担当の山下典江さん。
参加女性の多くが“ひとり参加”。ツアーのプログラムには、座禅体験やサイクリング教室なども盛り込まれ、多少ハードな側面もあったそうだが、「女性どうし、すぐに打ち解け『一緒に頑張ろう』と励まし合いながら盛り上がっていた」と、ツアーに同行した山下さんは言う。
●スマホアプリでも、カギは「励まし系」
住まいや旅だけではない。
最近はダイエット向けのサイトやスマートフォン専用アプリでも、「励まし系」がキーワード。
人気サイト「どうぶつダイエット」(運営:キャリアネットオークション)も、動物キャラクターや会員どうしが励まし合いながら、共にダイエットに取り組むのが特徴。会員数は、すでに約19万人(13年6月末現在)に上る。
なぜ女性は、仲間や動物キャラにまで励ましてほしいのか? もちろん、意志が弱く、ひとりだと長続きしないせいもあるが、それだけではない。元来女子は、男子以上に、ふだんから「励まし」を重視する生き物なのだ。
例えば、20~34歳男女に「やる気が出たときはどんなときか?」を訊ねた、ある調査(10年 JTBモチベーションズ調べ)。
これによると、男子に比べて女子が10ポイント以上多かった回答は、
・「上司や仲間から褒められたとき」(67.2%)
・「同僚や仲間とチームワークを感じたとき」(48.3%)
と、いずれも「褒め合い(励まし)」やチームワークを感じたとき。そう、ダイエットのみなならず、職場などふだんのシーンでも、やっぱり女子は「褒めてあげる」ことが大事なのだ。
男子の皆さま、ここで「オンナは面倒くせぇな~」と、突き放すなかれ。
ちょっと励ましたり褒めてあげるぐらいで、女子は心地よく働いたり、痩せてキレイになってくれる。
多少語弊はあるが、男子が思うより“安上がり”なのだ。どうか明日から、いえ今日から、周りの女子たちに「痩せたんじゃない?」「頑張ってるね」と、温かい声をかけていただければ、と思う。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役)