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参院選の目玉・ブラック企業政策、各党の政策を検証~企業名公表、取り締まり強化…

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 これらの情報開示は、社会的な包囲網の強化という意味で、一定の評価をすることができる。就職活動を行う学生にとっては、特に重要な政策だ。ただし、離職率が高くとも若者を使いつぶしてはいない企業が存在することにも注意が必要だ。女性が多い職場や、独立志向が強く、実際に技能を身につけて独立することができる業界では、ブラック企業ではなくとも、離職率の高くなるケースが、少ないながら見られる。

 そこで、より踏み込んだ施策が、次の「企業名の公表」ということになる。

・ブラック企業の企業名公表……公明、共産、社民

 企業名の公表を掲げている政党は、公明、共産、社民だ。だが、企業名公表にも多くの課題がある。まず、「ブラック企業」の企業名をいくら挙げたとしても、挙げきれない企業が出てきてしまうだろう。そうなれば、認定されなかった企業のブラックさに、お墨付きを与えてしまうことになりかねない。

 そもそも、公表をするブラック企業の基準はどうするのかという問題もある。企業に大幅な人事権が認められている日本では、パワーハラスメントと業務命令の境目が見えにくい。後述するように、労働時間にも「上限」がない。また、最低賃金も極めて低いため、長時間・低賃金労働も違法ではない場合もある。

 従って、各党が主張しているように(表参照)、違法行為が企業名公表の条件になるのであれば、長時間労働や低賃金を「ブラック」と呼ぶことはできない。そのうえ、ブラック企業は自らの違法行為を「隠ぺい」することも大の得意である。過労死や過労うつなどを、私傷病扱いに偽装し(労災隠し)、違法解雇をパワハラなどによって「自己都合退職」に偽装する。これらの結果、企業名公表を逃れてしまうのだ。

 とはいえ、現状では、明白な労基法違反や過労死・自殺者を出した企業の名前すら、公表されていない。過労死の労災認定を受けた企業名の開示を厚生労働省に求める訴訟も提起されている。しかも、大阪地裁では開示命令が出たものの、大阪高裁では逆転敗訴している。

 その理由は、過労死を出した企業が、名前を公表されることで「ブラック企業」と呼ばれてしまい、企業の信用が低下し、利益が害されるなどの不当なものだった。「ブラック企業名」というあいまいなものの公表の以前に、こうした過労死・過労自殺を引き起こした企業名や、サービス残業などの労基法違反が発覚した企業名を公表する施策を実施すべきだろう。

 さらに、これらの「情報公開」には、もう1つ、別の懸念もある。それは、被害者である若者自身が「企業を見分ける」ことの重要性ばかりが独り歩きし、「見分けずに入ったほうが悪い」という責任転嫁の議論に結びついてしまうという懸念である。

 情報公開は、確かに個人の企業選びに役立つが、より本質的なブラック企業対策が、ブラック企業そのものの取り締まりであることは言うまでもない。

(3)取り締まり・労働法行使

 公明、共産、社民

<解説>
 では、企業全体に対する取り締まりや、権利が行使されるための対策の実施・強化について、各党はどのような姿勢なのか(表を参照)。

・違法な企業の取り締まりの実施・強化……公明、共産、社民

 まず法律(具体的には労働基準法だろう)に違反する企業に対する立ち入りなど取り締まりの実施や、その強化が挙げられている。だが、こうした対策はすでに、労働基準監督署などの労働行政で行われている。確かに現在、それらが十分に機能しているとは言いがたい。であれば、労働行政に対するテコ入れの具体案を挙げなくては、実質的な改善にはならないだろう。

 この間、政府・行政は労働基準監督署の職員や、都道府県の相談員の人員削減を進めてきた。取り締まりを強化するのであれば、具体策と同時に、これらの人員の確保も明確にすべきである。

 ちなみに、東京23区を取り締まる労働基準監督官の総数は、管理職を含め、120人ほどにすぎない。明らかに無理がある。

・労働法教育の実施……共産、社民

 学校教育での労働法教育は、まだまだ不十分である。また、労基法で違反にならない労働問題については、法律を改正する以外の方法は、現場で当事者が権利を行使するしかない。ただし、この政策も、誰が実際にその教育を行うのか、教材はどのようなものになるのかなど、教育の実施が決まっても、問題は山積である。

(4)長時間労働規制

 民主(政策集のみ)、みんな(政策集のみ)、共産、社民

<解説>
 最後に、ブラック企業対策として掲げられていることは少ないが、長時間労働に対する規制が重要だ。すべての企業に適用される普遍的なルールを構築することが、確実に効果が見込めるブラック企業政策である(下表を参照)。hyou_2.jpg

・休息時間制度……民主(政策集のみ)、共産、社民

 まずは休息時間制度だ。EUでは最低休息時間を定め、退社から次の出社までの間に連続11時間の休息を義務づけている。これなら、日本でも比較的早期に導入がしやすいはずだ。

・労働時間の上限規制……民主(政策集のみ)、共産、社民

 また、法改正による労働時間の上限制定も長期的には実現したい。現在では、時間外労働は週15時間、月45時間、年間360時間などと法の告示で定められているが、労使間で特別の協定を締結すれば、これらは簡単に無効にできてしまうのが現状だ。EU諸国では時間外労働込みで週48時間という上限規制が厳格に守られ、日本とは雲泥の差がある。

・過労死防止基本法の制定……みんな(政策集のみ)、社民

 長時間労働規制について、当面の政策として実現が急がれるのが、過労死防止基本法だ。過労死遺族や支援団体が中心となって制定を求める署名を集めているこの法案は、「過労死はあってはならないことを、国が宣言すること」「過労死をなくすための、国・自治体・事業主の責務を明確にすること」「国は、過労死に関する調査・研究を行うとともに、総合的な対策を行うこと」を主な内容とした理念的な基本法だ。

 具体的な規制を定めない内容だが、自民党も含めた超党派の議員連盟が結成に向けて動いている。制定されれば過労死を防止するための社会的合意の第一歩となり、今後の長時間労働規制やパワーハラスメント規制も進めやすくなるはずだ。また、違法企業の情報公開も、基本法の制定によって促進されていくだろう。過労死防止基本法の制定は、ブラック企業対策においても、「切り札」であるといってよい。

BusinessJournal編集部

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