企業の死は、7月21日に投開票された参院選がひとつの節目になる。選挙直後の8月はお盆休みもあって、例年、倒産は少ない時期。実質的には9月に、倒産は本番入りということになるだろう。
“アベノミクス倒産”の特徴を挙げておこう。円安による輸入価格の上昇は、素材メーカーの収益を圧迫している。輸入価格の上昇や電力料金の値上げは企業にとってはコスト増だが、体力のない中小企業はコスト増分を製品価格に転嫁できず、収益は一段と悪化している。素材産業の経営基盤は予想以上にもろくなっている。
運輸業者はトラックの燃料に使われる軽油の価格が、リーマン・ショック後の2009年3月に比べて1リットル当たり40円上昇。運輸業界全体で年間6800億円のコスト増になる。運送費の20%が燃料費だが、長距離業者では40%を占めることもある。本来なら喜んで引き受ける長距離の荷物を断るところも出ているのは、このためだ。運輸業界は存亡の危機を迎えている。他の業界に先行して運輸業者の1~5月の倒産は173件と、前年同期を上回った。
マンション建設の東海興業が4月、負債総額140億円で東京地裁に民事再生法の適用を申請した。東海興業は、これで2度死んだことになる。1度目は97年7月、会社更生法を申請した。負債総額は5110億円で、バブル崩壊後のゼネコンの連続倒産の口火を切った。一度は立ち直ったが、今回、2回目の法的措置となった。受注は増えていたが、資材費や人件費の高騰で工事の採算が悪化し、資金繰りで行き詰まった。地場ゼネコンから30~50億円規模の倒産が出始めるとピンチである。
6月28日、土木建築資材卸のササ井鋼建が自己破産を申請した。負債額は30億円。タイルや床材を製造・販売しているフッコー(山梨県笛吹市、負債13億4000万円)は、6月26日に民事再生法を申請した。富山湾建設(高岡市、負債17億1000万円)は、6月21日に富山地裁高岡支部から破産手続きの開始決定を受けた。金谷(かなたに)工務店は、7月12日に富山地裁に民事再生法を申請した。負債総額は21億5700万円。農協とのつながりが深く、ピーク時には年商30億円を計上していた。国家強靱化計画などで公共工事の増加が見込まれる建設業界だが、過去の赤字の蓄積や過剰債務、労務費の高騰の三重苦に悩まされている。
●増える地場ゼネコンの倒産
アベノミクスの第1、第2の矢で、いったん業容は小康状態になったものの、結局、第3の矢が“実効”を伴ったものになっていないことが、地場ゼネコンの倒産につながっている。7、8月と地場ゼネコンの倒産が続きそうだ。
地方の建設会社の、ここ数カ月間の倒産をトレースしておく。徳島の大和(だいわ)建設工業は、5月14日に徳島地裁から破産手続きの開始決定を受けた。負債は13億5000万円。
鹿児島のサンケイ建設は、5月7日に鹿児島地裁で破産手続きの開始決定を受けた。負債は、地方としては大きく33億1200万円。木造建設の愛媛の清友(せいゆう)建設は、5月20日に松山地裁で破産手続きの開始決定を受けた。負債は15億円である。福岡の九州大倉住研(建材加工)は特別清算を行った。負債額は10億円である。(以上、地方の建設関連会社の倒産の数字などは帝国データバンク調べ)
●不動産、中小スーパーにも影響
そして、6月にインデックスが民事再生法の適用を申請したことを受け、社名が連想される危険なカタカナIT企業に関する経営情報が乱れ飛んでいる。
不動産業界はマンション販売が好調などと新聞で報道されているので、盲点になっているかもしれない。そして問題は小売業界だ。現在もテレビCMを展開している流通・小売の中にも、危ない会社があるともいわれている。
中堅中小のスーパーマーケットは、台頭するコンビニエンスストアに押され、東京や新潟、徳島など全国各地で倒産が相次いでいる。これが上場企業クラスにまで波及してくる懸念がある。
エレクトロニクス、非鉄金属、造船。そして最後は建設。“ゾンビ”と呼ばれた上場建設会社の中から、「やはりダメだったのか」というところが出てくるかもしれない。そして業態がまったく不明なカタカナの新興市場企業は、なぜ倒産したのか、その理由さえはっきりしないままに消えていく運命にある。東京証券取引所をはじめとする取引所の上場審査・管理がずさんだから、こういうことが起こるのではと指摘する声もある。