一方、カープの大躍進を受け、今年に入り特に東京など首都圏を中心に、全国的にカープファンが急増しているという現象が、しばしばメディアでも取り上げられ、話題を呼んでいる。
そんなカープ躍進の理由とファン層拡大のカラクリについて、モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がける投資銀行家で熱狂的なカープファンとしても知られる、“ぐっちーさん”のペンネームで「AERA」(朝日新聞出版)や「週刊SPA!」(扶桑社)などに連載コラムを持つ山口正洋氏に解説してもらった。
こんな甲子園球場は見たことがない……というのが、甲子園を本拠地とするタイガースファンの感想だったと思う。真っ赤に染められた三塁側アルプススタンド。「一体どこからこれだけのファンがやってきたのか?」と思うほどのカープファンの集団が、試合の雰囲気を完全に飲み込んでしまい、CSファーストステージでカープが結局2連勝し、ファイナルステージに進むこととなった。レギュラーシーズンで負け越したチームがCSファイナルに進むのだから、尋常ではない。
そして今年、どうやらカープファンは地元広島から大阪、東京と全国的に広がっているというが、なぜ今、カープなのか?
もともとカープファンは、かなりマイナーな存在だ。ファン構成としてはまず、地元広島の人たち。ただし、このファン層はかなりコアで、逆に言うと広島出身でカープ以外のチームを応援するということは、よほどのことがない限りあり得ない。
次に、私のような広島出身者以外のカープファンが存在するわけだが、おしなべて野球そのものが3度の飯より好き、というかなりコアな野球ファンが多い。笛や太鼓で応援に来たのか、野球を見に来たのかわからない観客で溢れる東京ドームなどで応援する気にはならないという人々が、カープファンの一部になっている。カープの選手は本当に必死にボールを追いかけて手抜きをしないので、これがコアな野球ファンの琴線に触れるわけだ。
一度カープの本拠地・MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(以下、広島スタジアム)に来て見てもらうとわかるのだが、とにかくカープファンは一球一球真剣に見ているので、投手が投げるときに一瞬シーンとなることがある。5万人がわれを忘れてそのシーンに集中する球場の雰囲気は、野球ファンにとって最高だ。そう、米メジャーリーグの試合に雰囲気が似ているといっていいだろう。
●なぜ女性ファンが多い?
そしてカープファンには女性が多い、というのも特徴だ。もともと広島の女性は1人でも平気で広島スタジアムにカープの応援に来てしまうし、スタジアムの入場者の4割が女性なのだ。カープが完全に地元に定着している証拠で、12球団で本拠地球場の建設資金の一部を、何億円も市民の寄付で賄ったのも広島スタジアムだけだ。
そして、昨年あたりからそこに新たなファン層が加わりつつあるようなのだ。第3のカープファンとでもいうべき存在である。
ご存じのとおりカープは資金が潤沢とは言い難く、FA(フリーエージェント制)で取得した選手は1人もいない。逆にFAでカープの選手が流出して、他球団で活躍している。タイガースで活躍した金本知憲や、現同球団選手の新井貴浩はもともとカープのクリーンアップだったし(CSファイナル進出を決めた試合の最後のバッターがその新井だったのには感動すら覚えた)、元カープ・エースの黒田博樹はメジャーリーグのヤンキースで大活躍中。その昔はジャイアンツがカープから4番の江藤智、エースの川口和久まで持っていってしまったこともあった。
カープはお金で他球団から選手を獲得する余裕がないため、おのずから若手を使わざるを得ないし、その若手は早くからチャンスをもらうので必死に球に食らいつく。苦しくても、お金がなくてもひたむきに生きていく……そういうカープの姿に自分の姿を重ねている女性ファンが急増しているというのだ。
名付けて「カープ女子」。彼女たちは主に首都圏で生活し、1人で東京ドームに応援に来て集客の重要な柱になりつつあるという情報を得た。生まれてからずっと不況で就職もうまくいかず苦労続きの自分の人生と、万年Bクラスで貧乏だけれど、どんどん戦力を取られても必死に戦っているカープの選手を重ね合わせているというのだ。うーむ、カープすごいじゃないか。
そう、人生は苦労の連続だが、カープのようにひたむきにやっていればいつかチャンスがあるんだよ、ということを今回のCSファイナル進出でカープは体現したのかもしれない。明日16日から始まるジャイアンツ戦は、大変な数のカープファンで東京ドームが揺れるだろう。
(文=山口正洋/投資銀行家、コラムニスト)