そんなブラック企業問題を解決するため、多くの識者がさまざまな媒体で論説を発表している。そのなかに、「消費者側にも責任があるのでは?」という内容があった。経営者が従業員の労働力を搾取して、死に追い込むほどのことをしなければ採算が取れないサービスや商品を、顧客が求めてしまっていることに“も”原因があるのではないか、というものだ。
しかし、8月11日に授賞式が行われた『ブラック企業大賞2013』に選ばれたワタミフードサービスと王将に限って話をすれば、消費者側に問題は感じない。というのも、ワタミや餃子の王将のドリンクメニューを見ると、ビールなどアルコール類の価格帯は400円から500円。フードメニューも500円前後の価格帯が多い。飲食業界内には、ビールやハイボールを180円で提供している店や、フードを280円均一にしている店もある。ワタミも均一居酒屋を展開してはいるが、多くは先述した価格帯の店舗である。
つまり、ワタミや王将は、非現実的な価格で商品を提供しているわけではない。飲食業界内の適正な価格で店舗を運営している。2社がブラック企業と批判されるのは、純利益を上げているのにもかかわらず、正社員に劣悪な労働環境を強いているから。対顧客ではなく、社内での問題である。
●消費者の問題とは?
だが一方で、消費者側に問題があると感じる部分もある。それは、いまだに根強い「お客様は神様」理論だ。
そもそも、「お客様は神様」という言葉は、「お金を払ったら、神様のように振る舞える」という意味ではない。しかし、日本においては、そのように勘違いしている消費者が多い。
例えば、飲食店が格安でドリンクやフードを提供しているということは、それなりのサービスしかできないということでもある。にもかかわらず、通常の値段の飲食店と同じサービスを求めてしまう。そこに「低価格だから仕方ない」という発想はない。
もっとひどいのは、ホテルでの振る舞いだ。雨の日や週末の深夜など、都内ではタクシーが捕まらなくなる。そこで、ホテルの玄関に向かい、ホテルマンを使って、タクシーを用意させようとする人が多く存在する。ホテルマンに「現在、タクシーを切らしております」と言われれば、「道に出てつかまえてくれないの?」「じゃあタクシー会社に電話してよ」としたり顔で言う。お金を1円も払わずに、平気でサービスを求めて横柄な態度をとる。
しかし、こういった人間に対し、従業員は何も言えない。本社に「サービスが悪い」「2度と行かない」と電話されたり、インターネットで悪評を拡散されたりする可能性があるからだ。結果、売上に反映されない、もしくは対価以上の仕事が増え、過酷な労働環境が生み出される。間違いなく、消費者側に問題がある。
6月3日付「週刊東洋オンライン」記事によると、「会社に行くと、上司から毎日厳しく成果を追求され、ストレスがたまる。だからつい、自分がお客様の側に立つと、サービスをする人たちに対して厳しくあたる。たとえばタクシーで降りるときに、運転手に『ありがとう』って言うお客さんは、10人中2人もいない」というような話を掲載しているが、この運転手をコンビニ店員に置き換えると、心当たりがある人は増えるのではないか?
「経営者よ、クビきりするなら切腹せよ」と言うトヨタ自動車元社長の奥田碩氏は、「いまの日本は、価値観が金銭に寄りすぎ。人間の生活にはモノと心がある。心のほうも大事にしなければいけないですよ」と警鐘を鳴らしていたが、「ありがとう」などの“おもいやり”の一言は、心を大事にすることにつながると思う。フリーアナウンサー・滝川クリステルが東京五輪招致のスピーチで語ったように、日本は世界屈指のホスピタリティ大国である。その半面、外国のように「excuse me」「thank you」が日常に溢れていない。
ブラック企業撲滅ももちろんだが、我々、消費者が態度を変えることで、労働環境を良くできる側面もある。歪曲して伝わっている「お客様は神様」という言葉は、一度、死語とすべきではないか?
(文=Japan Journal編集部@FBRJ_JP)