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“一大ビジネス”箱根駅伝、人気の秘訣と経済効果〜巨額スポンサー料、大学の宣伝効果…

文=高橋大樹/株式会社デファクトコミュニケーションズ代表
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“一大ビジネス”箱根駅伝、人気の秘訣と経済効果〜巨額スポンサー料、大学の宣伝効果…の画像1「箱根駅伝 公式サイト」より

 毎年恒例の正月スポーツイベントといえば、「箱根駅伝」(正式名称:東京箱根間往復大学駅伝競走)だ。1920年にスタートした長い歴史を持つ箱根駅伝は、開催時期が正月ということもあり、観戦者は2日間で100万人以上、テレビ放送の平均視聴率は30%を超えるという近年まれにみる長寿・優良コンテンツだ。プロ野球やサッカー中継の視聴率が下落傾向にある昨今、なぜ箱根駅伝はその人気を維持し続けることができているのだろうか? 今回はその要因について、考え尽くされたコンテンツの魅力、テレビ放送やスポンサーシップ、そして出場する大学の経営的効果などの観点から検証していく。

 まず、箱根駅伝というコンテンツ自体の強さを考えてみると、そもそもスポーツコンテンツには、映画やドラマ、また演劇などのジャンルに比べ、「結果がわからない」というかけがえのない魅力がある。大学生が競り合い、走り続ける。そこに、演出者の作為は見られず、幅広い層の視聴者が、「心地よい不安感」と「感動」を感じる。

 しかし、ドラマなどと比べて「起承転結がない」というわけでもない。むしろ箱根駅伝は、ドラマティックな構成になっている。派手でスピードがあり、人との競り合いに強い往路選手、地味で自分のペースで走る復路選手、留学生、スター選手など、「登場人物」としての選手にもそれぞれの個性がある。また、海沿い、山登り、復路など、コース全体が多彩な特徴を持ち、各区間が20キロを超えた長丁場であり、一走者の走りが大きく響くというコース編成になっている。つまり、見る者が感情移入できるようなシステムなのである。

「カレッジ・アイデンティティ」と「家族団らん」に訴求

 

 箱根駅伝は、日本のスポーツビジネスでは珍しいほど「カレッジ・アイデンティティ」を刺激する。スポーツコンテンツは、場所や地域、そして大学など、個人の帰属意識を刺激することによって盛り上がりをみせる。野球などがその代表例だろう。

 箱根駅伝では、そのコース横で、大学のロゴが入ったキャップやTシャツを着て応援する人がテレビに映るほど、「自分の大学」という刺激をうまく利用している。観客や視聴者は自分に関係するチームや選手が頑張り、結果を残すその姿に自分を投影させる。この構図が根強い箱根駅伝人気を支えているといえよう。

 また、レースが放映される時間も大きな要因のひとつだ。正月、家族や親戚が集まりお節料理と雑煮をつつき合い、まさに「家族団らん」が行われているその時間帯に、リアルタイムで流れるのが箱根駅伝だ。テレビ画面には有名人が出てくるわけでもなく、親と子の好みが分かれるタレントが出てくるわけでもない。無名の大学生が一生懸命に走り続けているだけで、誰も強い不快感を口にすることはない。ドラマなどのように、前回までの放送を知っている必要もないし、「正月と言えば箱根駅伝」というブランディングにより、見なければ「損をした」というようなレベルまで持ち上げられている。

スポンサー企業、出場大学にとっての宣伝効果

 ちなみに、箱根駅伝が現在のように「ショー化」したのは、1987年に日本テレビが中継を始めた頃からといわれている。

 現在では、民放の平均視聴率は20~30%で、NHKやラジオなどでも放送されている。このようなイベントを企業がスポンサードするのは、むしろ当然といえるだろう。サッポロビールはテレビ中継が始まった1987年以来継続するスポンサーであり、そのスポンサー料は1回で10億円を超えるといわれている。ラジオ中継では出場校の入試のCMも流れ、最近ではスポーツメーカーのブランド戦略にも大きく影響している。アシックス、ミズノをはじめ、ナイキ、アディダス、ニューバランスなど大手メーカーの参入が相次いでおり、2012年時点で、アディダスが青山学院と、ニューバランスが上武大学と契約を結んでいる。一説によると、優勝大学をスポンサードした場合の宣伝効果は、「60億円」ともいわれている。

 また、少子化の波に押され厳しい経営を強いられている大学側にとっても、箱根駅伝とは、大学名がアナウンサーにより連呼され、自然と認知度が高まる非常に大きな“宣伝媒体”だ。早稲田、中央、日大、明治など戦前から箱根の常連だった大学のユニフォームには大学名の頭文字のアルファベットがつけられているが、これらの大学のブランドがすでに確立されているからであり、新興校と呼ばれる大学は、ユニフォームに必ず大きく漢字の学校名を入れ、宣伝効果を最大限にしようしている。

 箱根駅伝による宣伝効果を最も上げたといわれているのが、「新・山の神」と呼ばれた柏原竜二らによって09年に初の総合優勝を飾った東洋大学だ。同年の東洋大学の受験者は前年に比べて1万人増加、翌10年はさらに4000人の増加となった。入学受験料を約3万5000円と想定すると、単純計算で5億円近い収入である。

 ちなみに東洋大に関しては、『箱根駅伝』 (生島淳/幻冬舎新書)に「高校時代にそれほど実績を残していない選手でも東洋大に入ってから見事に才能を開花させた選手が目立つ。特に福島、宮城、あるいは大学の練習の拠点である埼玉から有力な高校生を獲得している」と記されている。こういったエピソードなどすべてが「東洋大ブランド」をつくり、大学そのものの人気に結びついているようだ。

 また、09年以降、予選を勝ち抜き、箱根駅伝に参戦している上武大学。以前は認知度が高いとはいえなかったが、他大学の入学希望者数が減少するなか、箱根駅伝への参加によって入学希望者を増加させている。上位校のみならず、シード獲得争いの学校も、校名を認知させるいいチャンスと考えているようだ。

 以上、コンテンツそのものの魅力、ビジネス面や大学経営の視点から見た宣伝効果などを通じて、箱根駅伝の持つさまざまな“顔”を紹介してきたが、来年の箱根駅伝は、こうした要素に思いをはせながら見るのも一興かもしれない。
(文=高橋大樹/株式会社デファクトコミュニケーションズ代表)

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