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年収250万…早稲田大の非常勤講師らが、大学を刑事告発 突然の雇い止めの実態

文=林克明/フリージャーナリスト
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年収250万…早稲田大の非常勤講師らが、大学を刑事告発 突然の雇い止めの実態の画像1早稲田大学の大隈講堂(「Wikipedia」より/Everywhere West)
 6月27日午後5時から、早稲田大学本部構内10号館1F大教室で「大学における貧困、学費・奨学金・非常勤」(仮題)と称してシンポジウムが開催される。大学関係者だけでなく、希望者は誰でも参加できる。

 今回のシンポジウム開催のきっかけは、非常勤講師を5年で雇い止めとする就業規程を早大が強行制定したことだ。

 この方針に反対する非常勤講師らのリアルな活動を描いた『ブラック大学 早稲田』(同時代社)の著者として、筆者もパネラーとして招かれている。

 2013年3月末、突然、非常勤講師を5年で雇い止めにするという就業規程が非常勤講師らのもとに送られてきた。そうでなくとも首都圏大学非常勤講師組合などの調査によると、非常勤講師の平均年収は300万円そこそこで、そのうち250万円未満が4割もいるといい、彼らにとっては死活問題だ。

 一方、専任教員の平均年収は、組合との団体交渉の場で副総長が約1500万円と明らかにしているが、実際には1400万円を切っていると専任教員たちは話している。授業計画の作成・実施、試験問題作成、採点、成績評価など、専任と非常勤の仕事内容に大差ない。

 早大の教員のうち非常勤講師は59%(12年度末)で、授業の半分近くが非正規の教員によって行われている。つまり多数派の教員(ほとんどは博士)がワーキングプアか、それに近い状態に置かれているのだ。

1200万人の有期雇用労働者に影響する可能性

 そればかりでなく、担当する授業時間の上限を週4コマ(4時限)にすることまで就業規程には盛り込まれていた。仮に早大だけで授業を担当するとなると、この上限により年収は150万円程度になってしまう。

 就業規程強行制定の背景には、13年4月1日に施行された改正労働契約法がある。有期雇用労働者の雇用期間が通算5年に達した場合、その労働者は期限の定めのない無期雇用への転換を申し込める権利を得た。無期雇用に変えても賃金その他の労働条件は従前のままでいいのだが、多くの大学で、その期限が来る前に雇い止めにしようという動きが強まり、早大も同じだった。

 一般企業でも同様の動きをみせているところがいくつもある。12年の厚生労働省の調査によれば、有期契約労働者は1200万人いるとされているが、早大で噴出している問題は、これらの人びとすべてに影響するといえる。

前代未聞の偽装選挙

 ただ、その中でも早大の悪質なところは、5年雇い止めの就業規程を強行制定するために“偽装選挙”を実施したことである。

 就業規程を変更または新規に制定する時は、労働基準法90条によって、全労働者の半数を超える加盟者のいる組合があれば、その組合の意見を聴き、それがない場合には、「過半数代表者」を選出するべきことが定められている。選ばれた過半数代表者が意見書を提出し、その意見書と就業規程を労働基準監督署に届けるのが正しい方法なのだ。

 早大の理事会は、この過半数代表者選挙のお知らせと投票用紙を13年2月14日に各学部等の非常勤講師用のメールボックスに投函したという。

 早大では、1月の在学生の試験が終わると、入学試験期間として構内への立ち入りは厳重に管理される。しかも、専任教授のように個別に部屋が与えられていない非常勤講師は、在学生の試験の採点が終われば大学にはまったく行かなくなる。つまり、その当時約3800人の非常勤講師は、過半数代表者選挙について何も知らされていないに等しい。

 当事者である非常勤講師が関与せずに、過半数代表者が7名選出された。その全員が専任教員で、明らかに偽装選挙である。

 この事実が発覚したことで、首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長と早大名誉教授の佐藤昭夫氏が、鎌田薫総長ら大学理事18名を刑事告発。次いで当事者である非常勤講師のうち15人が刑事告訴する事態に発展した。

 どちらも13年12月に不起訴になったが、告発者と告訴者は検察審査会に申し立て、第四検察審議会が受理し、現在審査中である。

組合員が12倍に

 低報酬に加えて雇用さえ失われようとした非常勤講師たちは立ち上がった。5年雇い止めの就業規程が施行された時点では早稲田ユニオン結成準備会メンバーは10人だったが、次々に組合員を増やし、13年9月の結成大会で100人、年末には120人に達した。

 母体となる首都圏大学非常勤講師組合とも連動し、何度も団体交渉を要求し実現。さまざまな資料も駆使して、講師たちの不利益を少しずつ取り除いていった。

 不安を抱える一人ひとりの非常勤講師の相談に乗り、大学側と交渉したり、契約更新に際してどのような文言を大学側に伝えるかなど、具体的な内容を書いたビラを配布したり、実務的なアドバイスを組合は重ねていった。「労働運動とは、粘り強く話し合って問題解決を図ること」と常に主張する松村委員長の言葉を実行してきた結果ともいえる。

 そして今年3月までに、13年3月末時点に在籍していた非正規教員の在職5年上限を撤廃させた。ただし、就業規程施行の13年4月1日以降に契約を結ぶ人には5年雇い止めが適用される。

 さらに、週4コマまでとしていた授業上限を8コマまで妥協させた。1年前はお先真っ暗だったが、明るい兆しが見えてきたのである。それは、具体的で地道な活動と、なによりも早稲田ユニオンメンバーが激増したことが大きい。

 彼らのノウハウは、大学のみならず、不安定雇用の改善をめざす多くのユニオン関係者に希望を与えている。

貧困を生み出す学費値上げと奨学金

 早大をめぐっては、多くの人が手を取り合って少しずつ解決に向かっている面があるものの、非常勤講師への差別だけではなく、学費値上げや返済不能な奨学金問題が大学の未来、ひいては日本の先行きに暗い影を投げかけている。

 13年、日本は国連人権規約13条B項「高等教育の漸次的無償化」にようやく批准した。ところが現実には今春、早大、慶應義塾大学、日本大学、明治大学、上智大学など全国の大学が相次いで学費の値上げに踏み切った。

 私立大学の初年度納付金は、平均約140万円という巨額に上っている。不況や格差社会の進行により親の収入が減り続ける中、多くの学生が苛酷な負担に喘いでいるのだ。

 一方、学生生活を支えるための日本の奨学金は高利子の「教育ローン」にすぎず、延滞金制度や苛酷な取り立てにより、“公営の闇金”とも呼ぶべき貧困ビジネスと化している。

 卒業後、非正規や低賃金の職にしか就けなかった人は、奨学金を返したくても返せず、雪だるま式に増える借金と精神的な負担に打ちのめされている。

 教育や研究を通じて学生・院生に輝かしい未来を保障する機関ではなく、大学は貧困を生み出し貧困に寄生する、文字通りの「ブラック大学」となろうとしているのではないのか 。

 学費・奨学金・非常勤講師問題を切り口に、現在の「ブラック化する大学」の現状を学生・院生・教員と共に考え、改善に向けた一歩にしたいという意図で開催するのが、6月27日のシンポジウムだ。

 ご興味を持たれた方は、ぜひご参加いただきたい。

【大学における貧困、学費・奨学金・非常勤】(仮題)
・日時:6月27日(金) 午後5時
・場所:早稲田大学(早稲田キャンパス10号館1F大教室)
・パネラー
宇都宮健児弁護士(元日弁連会長・反貧困ネットワーク代表) 
岡山茂・早稲田大学政経学部教授(専任教員組合委員長、『ハムレットの大学』新評論・著者)
林克明(フリージャーナリスト『ブラック大学 早稲田』同時代社・著者)
大内裕和・中京大学教授(奨学金問題対策全国会議代表) 
・問い合わせ先daigaku_hijoukin@yahoo.co.jp首都圏大学非常勤講師組合
(文=林克明/フリージャーナリスト)

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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