6月30日に開催される定時株主総会後に会長を退き、創業会長兼最高顧問に就く。代表権のない新設の役職で、後任の会長は置かない。国内グループ企業のすべての取締役も退任し、CEO(最高経営責任者)のポストは大原孝治社長に譲る。「業績が好調のうちに次の経営陣に任せることで、会社の成長につなげたい」と、安田氏自身から退任の申し出があったという。
ドンキホーテHDの足元の業績は絶好調だ。2014年7~12月期連結決算の売上高は前年同期比13%増の3422億円、営業利益は同14%増の234億円。ともに中間期としては過去最高だった。15年6月期の連結売上高は前期比7%増の6580億円、営業利益は同6%増の365億円の見込み。26期連続で増収増益という偉業を達成するのは確実だ。
●異端児からメジャーに
岐阜県大垣市出身の安田氏は、慶應義塾大学法学部を卒業後の1978年、29歳の時にドンキホーテHDの前身となる「泥棒市場」を開業し、処分品やバッタ品を安く仕入れて売った。安田氏は深夜営業について小売業の中で最も早く目を付けた一人でもある。人手不足のため深夜に荷解きをしなければならず、その間も店を開けていた時、意外なほど来客数が多かったのだ。安田氏は「夜は儲かる」という確証を得た。
80年にジャスト(現ドンキホーテHD)を設立し、89年にディスカウントストア「ドン・キホーテ」1号店を東京都府中市に開き店舗網を拡大していったが、成長過程では軋轢もあった。2004年に死傷者を出した放火事件では、所狭しと品を積み上げる「圧縮陳列」が一因と報じられ、深夜営業に反対する住民運動も激しかった。
深夜営業という“すき間”から生まれたドンキホーテHDは小売業の異端児だったが、今では既存大手小売業を脅かす存在になった。14年7~12月期決算説明資料に、小売業時価総額ランキング(東証1部、15年1月30日終値)が掲載されているが、ドンキホーテHDの時価総額は6783億円で小売業の6位。ちなみに百貨店業界首位の三越伊勢丹HDは同6635億円で7位だ。異端児が小売業の本流である百貨店を上回った。
●周到な外国人消費取り込み策が業績押し上げ
この逆転の背景には、訪日外国人の急増がある。政府観光局の調べによると、14年に日本を訪れた外国人旅行者は1341万人で、前年比で30%も伸びた。その消費額も前年比で43%増の2兆305億円と推計され、過去最高を記録した。