コカ・コーラグループの東西会社が統合する。国内でコカ・コーラブランドの清涼飲料の製造・販売を手掛けるコカ・コーライーストジャパンとコカ・コーラウエストが経営統合に向け協議を始めた。
統合を決めた2社は、米コカ・コーラ製品を瓶詰めなどして日本国内で販売する「ボトラー」と呼ばれている。イーストの2015年12月期の連結売上高は前期比7.6%増の5631億円、営業利益は15.3%増の107億円。ウエストの15年12月期の連結売上高は3.8%増の4404億円、営業利益は29.6%増の142億円。両社の売上高は単純合算で1兆円を超え、国内でコカ・コーラ商品の9割を取り扱う巨大ボトラーが誕生する。
日本のコカ・コーラの歴史は、ボトラーの新設・再編の歴史といっていい。コカ・コーラが日本の飲料業界の王者であり続けるのは、ボトリングシステムの賜物である。フランチャイズシステムでいうと原液メーカーがフランチャイザー、ボトラーがフランチャイジーにあたる。ボトラーは原液メーカーとは資本関係のない独立資本である。
米国から原液が供給され、各地のボトラーが製品に仕上げ、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、自動販売機に供給する。きめ細かく全国展開するために、地域ごとにボトラーをつくったことがコカ・コーラの圧勝できた要因だ。
しかし、成功をもたらしたボトリングシステムが、今では成長の足かせになっている。人員の重複や無駄が目立つようになってきたからだ。ボトリングシステムは、あまりにも細分化されすぎたため、再編の機運が高まった。主導したのは米国本社である。
1999年、米国本社がボトラーの広域化を目指して設けたアンカーボトラー制度の国内第1号がコカ・コーラウエストジャパン(現コカ・コーラウエスト)である。北九州コカ・コーラボトリングが山陽コカ・コーラボトリングを吸収合併してウエストジャパンに商号を変更した。
その後、ウエストは近畿が地盤の三笠コカ・コーラボトリングと近畿コカ・コーラボトリング、南九州コカ・コーラボトリングを買収。2015年には四国コカ・コーラボトリングを傘下に組み入れた。この結果、近畿、中国・四国、九州の西日本22府県を統括する巨大ボトラーとなった。
日本コカ・コーラだけでなく、米国コカ・コーラがアンカーボトラーの設立に際し、直接出資するようになる。現在、ウエストの資本構成は、リコーが持ち株比率15.37%で筆頭株主。コカ・コーラ ホールディングズ・ウエストジャパン・インクは3.67%で第5位の株主だ。
米国本社が直接支配する形態に
13年7月、コカ・コーライーストジャパンの発足に際し、米国本社が出資を増やした。この時、コカ・コーラ セントラルジャパンなど東日本のボトラー4社が経営統合した。
東海地方から神奈川県が地盤のセントラルと、埼玉県などを地盤とする三国コカ・コーラボトリング、東京が地盤の東京コカ・コーラボトリング、千葉などが拠点の利根コカ・コーラボトリングが一緒になった。さらに、15年には仙台コカ・コーラボトリングが合流した。
イーストジャパンの発足にあたり、統合新会社の筆頭株主となるヨーロピアン リフレッシュメンツ(アイルランド)は、上場会社だった三国コカ・コーラボトリングの筆頭株主の三井物産から保有株式を取得した。
現在、イーストの資本構成は、筆頭株主がヨーロピアン リフレッシュメンツの16.13%。2位が日本法人の日本コカ・コーラの13.05%だ。
東西ボトラーの統合後の新会社では、米国本社の意向が一段と強まる。市場に直に接する企業を傘下に置くことによって、商品構成に米国本社の意向を反映させやすくなる。米国本社が世界戦略を決定するにあたって日本の市場動向をより早くつかむことをできるようにもなる。
残るボトラーは北海道コカ・コーラボトリング、みちのくコカ・コーラボトリング、北陸コカ・コーラボトリング、沖縄コカ・コーラボトリングの4社。これらボトラーも最終的に新会社に合流することになるとみる向きが多い。
乱立していたボトリングシステムを解体し、米国本社による直接統治に移行する。これが東西会社統合の本当の狙いだ。
じりじり後退するシェアを奪回できるか
国内の飲料メーカーは過当競争にさらされており、コカ・コーラも例外ではない。思うように利益が出なくなっている。売り場が限られるコンビニでは、棚を確保するために販売促進費などが膨らみ、スーパーでは熾烈な価格競争が繰り広げられている。15年12月決算の売上高営業利益率はイーストが1.9%、ウエストは3.2%にとどまる。
猛追してきたサントリー食品インターナショナルの15年12月期の連結決算の売上高は前期比9.8%増の1兆3810億円、営業利益は7.0%増の920億円だった。このうち国内事業の売上高は11.7%増の8069億円、国内の営業利益は0.2%増の467億円。国内の売上高営業利益率は5.8%である。コカ・コーラのイースト、ウエストの営業利益の合計は249億円、平均営業利益率は2.55%であり、サントリーが大きく上回っている。
コカ・コーラの統合新会社は、工場の統廃合などコストの削減を図り、経営の効率化を進め、競争力を高めることが喫緊の課題となる。
コカ・コーラにとって最大の販売チャネルだった自販機の不振の影響が大きい。日本コカ・コーラグループは国内で最多の83万台の自販機を設置しており、他の食品メーカーに比べて自販機による売り上げ比率が高い。これまでコカ・コーラグループが首位を独走してきたのは自販機分野で強かったからだ。
15年、サントリー食品インターナショナルがJT(日本たばこ産業)の自販機事業を買収し、台数を63万台に増やしたことで、自販機チャネルでもサントリー食品が追い上げてきた。
1990年代から2000年代初頭までコカ・コーラグループは飲料水シェアの30%超を誇っていた。同業他社は規模のメリットを求めM&Aを進めた。12年にはアサヒグループホールディングスがカルピスを買収して3位に浮上。13年、サッポロ飲料とポッカが統合。サントリーホールディングス傘下のサントリー食品インターナショナルがJTの自販機事業を手に入れたことによって経営統合の第一幕の幕が下りた。
07年に29.1%あったコカ・コーラグループの飲料シェアは、15年には27.1%と2ポイント落ちた。一方、サントリー食品は17.9%から21.0%へと3.1ポイントアップ。5位だったアサヒ飲料は7.5%から13.3%へと5.8ポイント増やし3位に浮上した(数字の出所はアサヒ飲料)。
ドル箱である自販機市場でサントリー食品に逆転を許すと、コカ・コーラは飲料トップの座を維持するのが難しくなる。
東西ボトラーの統合は、飲料のシェアトップを死守する決意の表れであることはいうまでもない。
(文=編集部)