「男一度は伊勢と吉原」
――かつては伊勢神宮参拝と並び称され、「一度は行かないと男になれない」といわれた遊郭の街は、現在はソープランド街として国際的にも知られた存在となっている。
時代の流れとともに姿を変えてきた東京・吉原だが、最近はさらに様子が変わってきているという。
たとえば、「吉原のソープ嬢の間で梅毒が増えている」という噂を聞いたことがあるだろうか。これは、数年前から医療関係者の間を中心に流れているという。
「梅毒感染が判明するということは、店側がきちんと検査をさせているという証拠です。確かに、吉原の感染者はかなり増加していますが、風俗業界には検査を受けさせていない店も多く、そちらのほうが危険です」
風俗業界の医療に詳しい川崎みな子医師(仮名)は、こう話す。また、風俗街や繁華街には、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に合わせた「浄化」の問題もあるようだ。
「『オリンピックに向けて、梅毒患者がウヨウヨしている、いかがわしい場所を一掃しよう』という国の意思を感じますね。前回(1964年)の東京五輪の際は、頂上作戦としてヤクザが排除され、70年の大阪万博では大阪のソープがかなり摘発されるなど、国際イベントの際はそうした対策がなされてきました。小池百合子都知事は公共空間の禁煙化も進めるようですし、吉原だけでなく首都圏の風俗業者は戦々恐々だと聞いています」(川崎医師)
過去の例からしても、吉原や歌舞伎町の「浄化」は、あり得ない話ではなさそうだ。
死の危険もある梅毒、20代女性に急増
梅毒感染だが、実はセックスワーカーだけでなく国内全体で増加傾向にある。国立感染症研究所によると、2016年に報告された梅毒感染者は4518人で、1974年以来42年ぶりに年間4000人を突破した。感染者のうち約3割が女性で、特に20代の増加が顕著だという。
梅毒は、主に性行為によって体内に細菌(梅毒トレポネーマ)が侵入することで発症する。かつては、梅毒トレポネーマが脳に入って精神を病む例も珍しくなかったが、現代では治療薬も普及しており、「死に至る病」とはいえなくなった。しかし、放置すれば生命の危険を伴うこともあるという。
川崎医師は、「梅毒を甘く見てはダメです。死亡のリスクもゼロではありません」と強調する。
「進行すれば、複数の臓器に病変が起こります。また、エイズなどとの合併症は病気の進行を早めますし、妊婦から赤ちゃんに感染すると死産や奇形のリスクが高まります」(同)