インスタに「写ルンです」で撮影した写真が満載の謎…なぜ再ブーム?簡便さと独特感
レンズ付きフィルムとは
我々お父さん世代にとって、若いころの思い出はカメラとともにあった。幼い頃はまだカメラが高級品で、一家に1台あるカメラをイベントの際に持ち出しては、フィルム(24枚あるいは36枚)の残り枚数をカウントしながら大切に撮影したものだ。カメラのフィルムは貴重品であり、一枚たりとも無駄にはできないという思いで撮影し、その出来栄えに一喜一憂したものである。
デジタルカメラの出現後、その後のスマートフォン搭載カメラの隆盛とともに、カメラフィルムの出荷本数が激減していることは想像に難くないだろう。以前はコンビニエンスストアやスーパーなど、どこへいっても写真フィルムが売られていたが、そんな光景も今では見られなくなった。
ところで、「レンズ付きフィルム」はご記憶にあるだろうか? そう、1990年代に一世を風靡した「写ルンです」(富士フイルム)に代表される、俗にいう「使い捨てカメラ」のことである。
我々お父さん世代にとっては、青春時代を象徴するアイテムの一つに違いないが、今の若者にこのレンズ付きカメラを持たせると、以下のような反応をするそうだ。
(1)モニターがないので、どこを見て撮影すればよいのか迷う(ファインダーをのぞくという行為を知らない)
(2)シャッターを切ったのち、どうすればよいのか迷う(フィルムを巻くという行為を知らない)
(3)撮り終えたのち、どうすれば写真を入手できるのか迷う(フィルムから写真を現像するという行為を知らない!)
写ルンですが再びヒット
意外なことに、1年ほど前から、このレンズ付きフィルムが、再びヒットしているという。
富士フイルムの発表によると、最盛期(97年)には写ルンですの年間販売台数が約9000万本を記録したが、その後減少を続け、2012年にはピークの20分の1以下の430万本まで減少した。しかし、15年夏頃から再び売れ始め、販売台数が増加に転じたというから驚きだ。
とくに、10~20代の、これまでレンズ付きフィルムを使ったことがない世代の間で人気があるという。
たとえば、SNSの「インスタグラム」では、写ルンですで撮影された写真が4万件以上アップされているという。インスタグラムといえば、デジカメで撮った写真をアップするものと思いきや、写ルンですで撮影した写真をわざわざアップする写真好きがいるということだ。フィルム写真が持つ独特の雰囲気を楽しむ消費者が拡大しているのだろう。
16年4月に5万本限定で発売した30周年限定の「アニバーサリーキット」も、あっという間に完売したという。ここ数年はカメラ量販店やインターネットが主な販路だったが、最近は再ブームということで大手の雑貨店や書店などからの取り扱い希望も来ているという。
今、写ルンですが受ける理由
今になってなぜレンズ付きフィルムが受けるのか? いろいろな説明がされているが、まとめるとおよそ以下のような理由が考えられる。
(1)現像して初めて写真が見えるというわくわく感
(2)デジタルでは味わえない、独自の風合い
(3)シャッターを押すだけという撮影の簡便さ
(4)軽くて持ち運びやすい、また、バッテリー切れの心配がないこと
昨今、撮影した写真はデジタル画像として、PCやスマホの中に保存したままにすることが多いが、レンズ付きフィルムで撮影した場合は、現像しない限り写真が見えない。そのため、写真店で現像を依頼し、ドキドキしながら待ったうえで、実体のある写真として手元に届いたときの感動が認めなおされている。
また、独特な画像にはデジタルでは味わえない良さがあり、写真好きにより、画像としての価値が見直されているという一面もあるようだ。
細かな設定が何一つできず、フィルムを巻いてシャッターを押すだけで撮影ができる簡便さがむしろ新鮮という見方もあるという。
デジカメと比べると、バッテリーが切れる心配もないし、軽いので常に持ち運べるという利点もある。水に強いので、スキーや海水浴に持っていっても大丈夫。
90年代は、女子高生のかばんには必ず写ルンですが入っていた時代もあったが、20年の歳月を経て、再びあの時代に逆戻りしているようだ。
昔の良さが見直されている
写ルンですは、富士フイルムが発売を開始し、そのネーミングの良さも受けて、爆発的なヒットをしたが、その後、コダックやコニカ、DNPなどが追随した。ただし、写真用フィルムの販売量激減とともに、多くが撤退したようだ。現状アマゾンを見ると、富士フイルムとコダック(つまり写真用フィルムメーカー)の商品のみ確認できる。
話は変わるが、最近、音楽の世界でレコードやテープレコーダーの人気が復活していると聞く。昨今、音楽に関してもデジタル化されたものに慣れてしまった感があるが、だからこそ、改めて昔ながらのアナログ感に価値を見いだす消費者がいるようだ。
すべてがデジタル化されつつある今の時代、アナログへの回帰や、デジタルとアナログの融合といったところに意外なビジネスチャンスがあるのかもしれないということを、写ルンですの再ヒットによって感じさせられた。
(文=星野達也/ノーリツプレシジョン取締役副社長、ナインシグマ・ジャパン顧問)