小池百合子東京都知事が表明した私立高校の授業料無償化が、話題を集めている。年間の収入が760万円に満たない世帯の私立校に通う高校生の授業料を負担するもので、原案通りに議会を通過すれば、私立校に通う高校生のほぼ3分の1、数万人程度が恩恵を受けるかたちになる。
教育の機会均等、格差是正を意図したものであり、歓迎をする保護者は多いのだろう。ただ、高校に子供を通わせる数多くの保護者の関心事である、大学への進学への影響は、限定的なものになりそうだ。
識者のなかには、今回の学費負担の軽減によって私立校全体の進学力の底上げ、そしてそれに伴う公立校の停滞を予測する声はあるが、進学塾の関係者は「ほとんど影響はないだろう」と捉えている。理由として都内の進学校の序列はほとんど固定化しており、また現在の序列が過去の経緯から考えても、より堅固なものであること、及び私立の授業料の無償化がなされても、無償化の対象になる世帯では私立のほうが公立よりも学費の負担が重いことを挙げている。
現在の進学校の序列がより堅固であることは、過去3年間の東京大学合格者数のランキングからも窺うことはできる。みてのとおり、首都圏ばかりか全国でもその名が知られる有名進学校ばかりだ。特に目を引くのは日比谷、西、国立と都立の伝統校がランクインしていることだろう。
高校無償化で新たな格差の懸念
学校群制度導入以来、凋落の一途をたどった都立高に行政の本格的なテコ入れが始まったのは2001年、石原慎太郎都知事の時代からである。学校群制度の廃止、進学重点校の指定、自校作成問題による入試の導入から十数年かけて、ようやくトップグループに伍せる水準まで復活したことになる。「安定した進学実績をあげるのは一朝一夕にはできない」(進学塾関係者)というわけだ。
なお、これは都立校に限らない。比較的最近トップグループに加わった豊島岡女子学園、渋谷教育学園渋谷も長い時間をかけて、徐々に進学力を高めてきている。
トップグループに続く2番手以下の私立進学校についても、進学面で有利に働くことはないようだ。具体的には桐朋、芝、巣鴨、雙葉、城北などが該当するが、こちらは先述した都立トップ校や小石川を筆頭にする都立中高一貫校の台頭によって、かつてほどの進学実績があげられなくなっている。
「保護者が関心を持つのはやはり直近の実績です。過去がどうかなどは気に留めない」(進学校を目指す子供を持つ保護者)
制度面でも気がかりな点はある。年収による制限が一律であることだ。大半の自営業者の世帯は、無償化の線引きになる年間収入760万円未満に含まれるだろう。ただ自営業者の場合、クロヨンともいわれるように、収入の捕捉率が高い会社員に比べて、収入が少なく見積もられる傾向はある。対象が数万人以上になれば、関係部局で精査するのは不可能であろう。すなわち、保護者の職業によって恩恵を受ける層と、割を食う層、新たな格差が生じてしまいそうなのだ。
(文=島野清志/評論家)
【東京都内トップ進学校の過去3年の累計東大合格者数】
開成(私立・514人)、筑波大附属駒場(国立・310人)、麻布(私立・264人)、駒場東邦(私立・214人)、桜蔭(私立・204人)以上200人以上。東京学芸大附属(国立・167人)、日比谷(都立・127人)、海城(私立・126人)、豊島岡女子(私立・104人)以上100人以上。早稲田(私立・92人)、女子学院(私立・88人)、西(都立・85人)、筑波大付属(国立・79人)、渋谷教育学園渋谷(私立・77人)、武蔵(私立・75人)、国立(都立・64人)、攻玉社(私立・63人)以上60人以上。
※東大合格者数は各校ホームページより引用。一部データのないものは「サンデー毎日」(毎日新聞社)のデータを使用。