「会見を行うかどうかも含めて、まだ何も決まっておりません」
14日午前、東芝の広報担当者は電話の向こうで、消え入りそうな声で答えた。すでに前日、1カ月延長した2016年4~12月期決算発表を再延期するという発表があった。この異常事態に会見をしないとなると、会社としての説明責任を果たさないことになる。
会見が行われることがわかったのは、昼前のことだった。午後4時、浜松町の東芝本社39階の大会議室に、綱川智・代表執行役社長、佐藤良二・監査委員会委員長、平田政善・代表執行役専務、 畠澤守・執行役常務が姿を現し、会見は始まった。
「株主、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様には、多大なるご迷惑、ご心配をお掛けいたしますことを改めて深くお詫び申し上げます」
綱川社長より、決算発表の再延期に対する陳謝の言葉が述べられる。関東財務局に認められた提出期限は、4月11日である。佐藤氏が再延長の理由を述べる。口調は淡々としていたが、内容はショッキングなものだった。東芝の原子力事業での損失は米原発子会社・ウェスチングハウス(WH)買収に起因している。2月からの延長の理由は、WHによる米原子力建設会社の買収に関して、「内部告発」があり調査の必要があるというものだった。
今回の再延長は、内部告発が事実であることが判明し、さらなる調査が必要となったことによるというのだ。
佐藤氏の発言の当該部分は、以下の通りだ。
「この内部通報は、当時WH社の管理職であった者が原子力発電所建設プロジェクトコストを検証する検証会議で、コスト修正への合意を拒否した報復として当時の職責を解かれたと主張する内容でした。当該内部通報を受け、弁護士事務所による調査を実施しましたが、当該従業員がコスト修正への合意を拒否したことで解雇された事実はなかったとの調査結果を得ております。調査の過程で一部経営者により不適切なプレッシャーがあったとの供述があったため、当社はさらに追加で対象範囲を拡大して調査を実施しておりました。当社としては現時点では四半期連結財務諸表への具体的修正を行うべき、重要な事項を認識しておらず、独立監査人からもそのような指摘を受けておりません。プレッシャーを与えたと認められた経営者に対しては、WH社への経営関与を控えるよう改善措置を講ずることといたしましたが、調査が完了した時点で、改めて最終的な措置を公表いたします」
調査を続けるということだが、経営者による不当なプレッシャーがあったということは、内部告発の通りだったのだ。
「危機的状況」
綱川社長より、「今後の東芝の姿について」として見通しが語られる。東芝再生への取り組みとして、(1)海外原子力事業のリスク遮断、(2)財務基盤の早期回復と強化、(3)東芝グループ組織運営の強化が挙げられた。
特に強調されたのは、ひとつ目の海外原子力事業のリスク遮断だ。東芝グループにおけるWH社の位置づけの見直し、海外原子力事業のリスクを遮断することが何度も語られる。 売上高・営業利益の説明では、海外原子力部門以外は好調であることが強調された。
原子力事業による東芝崩壊が印象づけられる会見だった。
東芝再生へのロードマップとして、16~17年度までが危機的状況、18~19年度は「安定成長」と解説図を示して説明されたが、画餅に帰することのないよう祈るばかりだ。
(文=深笛義也/ライター)