森友学園問題をめぐり10日、大阪府議会は臨時会本会議に、籠池泰典・前理事長を参考人招致した。籠池氏は「私だけがトカゲのしっぽ切りのように罪を被せられるのではなく、松井(一郎)知事や私学課長らを議会に呼んで、真相究明を進めてもらいたい」などと述べた。
その森友学園が運営する予定だった小学校(大阪府豊中市)の園庭には、地下3m以深から掘削した土壌が山のように積み上げられていたが、今は片付けられている。その土壌中にごみがどれだけ混入していたのかを示すマニフェスト(産業廃棄物管理票交付等状況報告書)が公表された。国は敷地内に2万tのごみが埋まっていることを理由に、国有地を8億円値引きして森友に売却していたが、同マニフェストには「新築混合廃棄物」が194.2tとの記載があり、国が主張していた量の100分の1であることがわかった。今回は、同マニフェストが持つ重大な意味を考えたい。
急な動き
籠池氏の自宅や森友が運営する保育園に家宅捜査が入り、大阪府議会で籠池氏が参考人招致された。そして補助金の不正受給があったなどとして、籠池氏に近々に逮捕状が出るとも報じられている。一方、森友問題をめぐる国会での追及で、証拠資料を廃棄したなどと、のらりくらりの答弁を繰り返し、事実解明の盾となった財務省の佐川宣寿理財局長が、国税庁長官に就任するとの発表があった。
森友問題の核心は、9億円の鑑定価格である土地が、約90%の8億円も値引きして森友に売却された点にある。地下3mまでの深さに埋もれていたごみを1億3000万円かけて撤去した後に、さらに3m以深に2万トンのごみがあり、その撤去料に8億円かかるというのが国の説明である。安倍晋三首相夫妻が関与し、国有財産を所有している国交省大阪航空局と財産管理している財務省近畿財務局が、根拠なく値引いた疑いが持たれている。
森本の小学校建設を請け負った藤原工業株式会社のマニフェスト(資料1)が、市民団体「森友告発プロジェクト」の記者会見(7月7日)で公表された。豊中市の市議が行った情報公開請求を入手したものである。これによって、2万tのごみが存在したというのは、虚偽であったことが実証された。そして、8億円を値引いた国や大阪府の背任行為が明らかとなった。財務省近畿財務局職員らに対する背任罪の告発状を、すでに大阪地検特捜部は受理しているが、ただちに立件の手続きに入るべきである。
マニフェストの全容
廃棄物処理法では、事業活動によって発生した廃棄物は、その事業活動を担う事業者が年に1度マニュフェストで報告する義務がある。通常は都道府県に報告されるが、豊中市は約40万人の人口を擁する中核衛星都市であるため、報告先は豊中市であった。
今回の報告の義務を負っていたのは、森友学園から小学校建設工事の委託を受け、2016年度に1年かけて工事を進めてきた藤原工業(写真2)にあり、その報告期限は今年6月30日であった(実際には5月19日に報告)。
小学校建設工事には多くの下請け企業が関わっており、校庭の整備や校舎建設が進められるが、マニフェストは森友から委託を受けた事業者である藤原工業がまとめて報告することが義務付けられている。したがって森友の校舎建設工事を通して16年度に排出されたごみを報告するマニフェストは今回の報告以外にはなく、排出ごみはマニフェストに記載された新築混合廃棄物の194t以外にはないことになる。
藤原工業は15年の年末に森友から建設工事を請け負い、16年に工事を開始している。3月11日に校舎建設のための基礎杭を打っていたところ9mの深部からごみが出てきたと報告し、それを受けて近畿財務局が3m以深に2万tのごみがあると発表し、その撤去料として1t当たり4万円と計算して計8億円と算出したのである。
近畿財務局は、2万tのごみは土壌中の土に混じって約50%の割合で含まれていると、これまで説明してきた。そのため工事の進展に伴い、森友の園庭に積み上げられ山積みにされた土壌の中に、それらのごみがあるものと考えられてきた。
写真3は森友の校舎建設中の写真であり、約1年前の16年8月7日に撮影したものである。手前の青いビニールシートで覆われたのが掘削した土壌の山。
工事が始まって約1年、今年4月1日に開校予定の校舎の建設は3月には完了し、園庭に積み上げられた土壌は、3月12日に撮影された写真4で見ると、積み上げられていた土壌の山は処理・整地され、ほぼ全量撤去されている。
もし2万tのごみが存在するとすれば、今は整地されていた場所に置かれていた土壌中にあったはずであり、撤去作業に伴ってマニフェストで報告されるはずである。土壌は再生資源であるが、廃棄物は運送も処理・処分も許可を持つ業者しか取り扱うことができない。事業者は事業活動に伴い廃棄物を発生させたときには、これら許可業者に依頼し、運搬・処分を頼むことになる。その際、どの業者に依頼し、運送・処分したのかを廃棄物の種類や数量までマニフェストで報告するよう義務付けられている。
このようにして廃棄物の違法な処理処分を防ぐのがマニフェストである。法人事業体は会計処理の報告にあたり会計監査の承認を得ることが必要だが、マニフェストの提出は廃棄物に関する最終承認活動といえる。したがって筆者らは、近畿財務局による2万tのごみの算定に対して、マニフェストでどのように報告されるかを注目していた。
豊中市の事業ごみ指導課によると、今回マニュフェストで報告されている新築混合廃棄物は、校舎建設中に建設に伴って廃棄された建築材料や梱包材、木切れ、金属片などであり、同地に大きな金属の箱「バッカン」を複数個備え、いっぱいになると運び出したという。運び出した回数は71回になり、合計重量が194tのため1杯分は約3tになる計算となる。この新築混合廃棄物には埋設ごみは含まれていないということである。
では、埋設ごみはどうしたのかというと、埋設ごみは今も園庭にわずかであるが積み上げられているという。その概略の容積は5m(縦)×5m(横)×5m(高さ:地上3m、地中2m)ほどで、土を含んだ容積でも125立方mぐらい(重量は200t未満)であると、豊中市の担当者は現場確認したうえで報告している。本来なら今回のマニュフェストで報告されるが、校舎建設の最終段階で廃校の可能性が出て、園庭にその分を放置したという届けが、藤原工業から豊中市にあったという。
8億円相当のごみ問題、ついに決着
8億円のごみ問題は、全国からその驚く理由に批判が飛び交った。
森友問題では、一度レーザーで探索調査し、68カ所で地下約3mまでに埋まっていたごみを撤去し、1億3000万円支払ったうえに、その上で3m以深にも2万tのごみがあるといわれてきた。
しかし財務省が所有する「(仮称)M学園小学校新築工事-地盤調査報告書 H26年12月」の森友用地の地層図では、地下3mより深い地層にはごみがないことがわかり、また国会での審議で、近畿財務局は自ら調査して2万トンのごみがあると判断したのではなく、総合的に判断して、つまり業者の意見を聞いて判断したことが、民進党の小川敏夫参議院議員の質問でわかってきた。
さらに5月16日の民進党のヒアリングで明らかにされた籠池氏のメールは、さらに衝撃的だった。国が業者任せにしてきたその業者も、ボーリング調査の結果をまとめた柱状図などから深部にごみがないことを把握していたのである。そして籠池メールでは、ごみが無いことが分る柱状図は、近畿財務局には出さないでおこうという相談内容が示されていた。
しかし筆者らが豊中市への情報公開請求数百枚の中から見つけた資料は、さらに衝撃的であった。大阪航空局も、「平成23年度大阪国際空港場外用地(0A301)土壌汚染深度方向調査業務報告書」は、12年度2月にこの資料を自ら作成し、近畿財務局や大阪航空局は、深部にはごみがないことを知っていたのである。
この問題は国会審議のなかでも追及されてきたが、近畿財務局(財務省)と大阪航空局(国交省)は居直り続けたのだ。そしてとうとう今回のマニフェストでは、2万tのごみがないことがわかったのである。これは、これまでの論証の範囲を超えた事実報告である。
森友問題では、交渉経過や重要資料を、国のレベルでは、財務省がことごとく情報隠ぺいしてきた。前出の写真3、4は、豊中市の木村真市議が撮影したものであり、問題が大きな話題になる1年前から工事中の写真を記録していた。その写真による時系列の記録が、問題の解明に大きく役に立った。自治体への情報公開請求は、国といえども網をかぶせることができなかった。
こうした事実が判明した以上、大阪地検には以下の取り組みを期待したい。
・なぜ近畿財務局が、大阪航空局と計らって2万tのごみの仮想を行ったのかについて、関与した担当者たちへの事情聴取
・藤原工業や請負業者の作業にかかわった人物、現場で実情を知っていた人物への聞き取り調査
・財務省や大阪府が安倍首相夫妻の意向を忖度した上で背任行為を行ったのか、その調査
そして何よりも、財務省と国交省は2万tのごみはなかったという事実についてまず釈明し、その上で責任をどう取るのか発表する必要がある。上記の背任行為を隠そうとしてきた佐川元理財局長の国税庁長官就任を取り消すべきではないか。提案したい。
なお今回のマニフェストで報告されていた3m以深にごみが無いことは、少なくとも今年3月31日には、わかっていた事実である。藤原工業がその時点でなぜ発表しなかったのか。同社ホームページには、同社の顧客として近畿財務局の名がある。
籠池氏への捜査の前にやらなければならないことが多いと感じるのは、筆者だけであろうか。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)