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タカタと自動車メーカーが闇に葬った「不都合な真実」…エアバッグ破裂、調査停滞の理由

文=河村靖史/ジャーナリスト
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タカタと自動車メーカーが闇に葬った「不都合な真実」…エアバッグ破裂、調査停滞の理由の画像1タカタが民事再生法の適用を申請(つのだよしお/アフロ)

 欠陥エアバッグ問題は、タカタが民事再生法を申請したことで収束に向けて動き始めた。自動車メーカーが負担してきたエアバッグ関連費用の総額は1兆4000億円を上回った模様で、大半が回収不能となる見通し。タカタは11月27日までにキー・セイフティ・システムズ(KSS)をスポンサーとする再生計画を東京地方裁判所に提出する予定。ただ、エアバッグの異常破裂の原因は依然として曖昧なまま。自動車メーカーも問題の再燃を懸念しつつ、問題を闇に葬ろうとしている。

 SUBARU(スバル)は8月25日、タカタ製エアバッグのインフレータのリコール費用の損失引当金として813億円を特別損失に計上すると発表、2017年4-9月期の四半期利益を前回予想から565億円マイナスの885億円へと大幅下方修正した。スバル以外の自動車各社は、タカタ製エアバッグのリコール費用を17年3月期までにほぼ引当済みだ。これで6月26日に東京地裁に民事再生法を申請したタカタのエアバッグを処理するため、自動車メーカーが負担してきた総額は1兆4000億円を超えた模様で、この大半が債務不履行となる見通し。

 タカタ製エアバッグの問題は、衝突事故などでエアバッグが展開する際、エアバッグを膨らませる火薬が想定以上の強さで爆発し、火薬の入っているインフレータ容器が破損、その金属片が飛散して乗員が死傷する。当初、タカタの海外工場で生産されたインフレータの品質管理体制に問題があり、タカタはこの工場で生産されたエアバッグをリコールするとともに、対策に乗り出した。

 しかし、その後、他の生産拠点で製造したエアバッグが異常破裂する事故が発生、原因がはっきりしないなか、リコール対象台数が拡大していった。

 タカタ以外のエアバッグメーカーは、火薬に硝酸グアニジンを使っていたが、タカタは硝酸アンモニウムを使用している。異常破裂する事故は、タカタ製で古い車が多かったことから、当初、原因は硝酸アンモニウムの経年劣化が原因とみられていた。しかし、比較的新しいモデルのエアバッグが異常破裂する事故が発生した。

 異常破裂の原因については、自動車メーカーが第三者に委託するかたちで調査に乗り出したが、原因ははっきりしなかった。ただ、硝酸アンモニウムが吸湿すると異常破裂するとの見方が強まる。異常破裂の原因の解明に時間がかかるなか、自動車メーカー各社はエアバッグの異常破裂による批判をかわすため、自主的なリコールに踏み切った。通常、欠陥があった場合、不具合の原因を明確にしてから対象を確定してリコールする。リコール処理費用は、リコール原因となった部品を製造した部品メーカーと自動車メーカーが責任の分担割合に応じて負担する。

 タカタ製エアバッグの場合、原因が解明されてからタカタにリコール費用の一部を求償することとし、自動車メーカーが費用を全額立て替えるかたちで自主的にリコールしてきた。これが、自動車メーカーがタカタに対して抱える1兆4000億円を超える巨額な債権だ。そしてタカタの問題がここまで拡大したのは、異常破裂の原因の究明が難航したことが背景にある。

進まない調査

 タカタが6月26日に民事再生法の申請後に開いた記者会見で、高田重久会長兼社長は「(硝酸アンモニウムのインフレータは)自信を持った製品。不具合が発覚してから調べたが、原因は不可解。化学の専門家がテストし、解析もしたが最終的に再現できない。何が悪かったのかはいまだにわからない。当局も解析しているが最終的に決着がついていない」と、経営破たんした段階でも真の原因が解明されていないことを主張した。

 実際、自動車メーカーは、欠陥エアバッグの原因物質が硝酸アンモニウムにある可能性は高いと考えられるものの、異常破裂の真の原因については曖昧にしたままだ。タカタの欠陥エアバッグが大きな問題となっていた当時、日本自動車工業会の会長だった池史彦氏(当時ホンダ会長)は「自動車メーカーは機械に関する専門家は多いが、化学物質に関する知見が不足していた」と述べ、自動車に使われている火薬やバッテリー液などの化学物質の経年劣化などを調査する方針を表明した。しかし、その後に自動車に使われている化学物質についての調査が進んでいる気配はない。

 ある自動車メーカーの役員は「専門家が2年以上かけて調べてもインフレータが異常破裂する原因がわからないのに、専門外の自動車メーカーが手を出せる領域ではない」と解説、当時の池会長の発言は「勇み足」と指摘する。

 そもそも自動車に搭載されているインフレータは、経年劣化で交換することを前提にしていないという。化学物質の経年劣化を考慮して一定年数ごと交換するにしても、その裏付けが必要となるが、自動車メーカーはそうした知識を持ち合わせていない。この問題を追及し続けることは「危険性も理解していないものを自動車に搭載しているのか」という自動車メーカーに対する批判になりかねない。結局、自動車メーカーは、この化学物質の経年劣化の問題をうやむやにする。

臭いものにフタ

 それができたのも、タカタ製エアバッグのリコール問題が異例の経過をたどってきたからだ。本来、不具合があれば原因を特定してからリコール処理費用の負担を含めて責任の所在を明らかにするべきだ。しかし、タカタの場合、「硝酸アンモニウムがどうやら怪しい」という憶測をベースに、自動車メーカーは自主的にリコールした。

 しかもリコールは自動車メーカーの責任の下で実行されるが、今回の場合、部品メーカーのタカタが批判の矢面に立たされた。しかもタカタは、リコール費用によって経営破たんが確実視されていた。自動車メーカーから見れば、タカタがスポンサーとなるKSSに事業を移して退場すれば、異常破裂の真の原因や化学物質の経年劣化の問題を闇に葬ることはたやすい。

 異常破裂の原因がはっきりしないなか、タカタは民事再生法を申請した。エアバッグ、シートベルトの世界シェアが2割の大手サプライヤーのタカタが民事再生法を申請したことで連鎖倒産や自動車生産に支障が出ることが懸念されたものの、大きな混乱は起こっていない。東京地裁が事業継続に必要な取引先に対する優先的な債務弁済を許可したためで、重要な取引先には従来通りの条件で部品を発注している。政府や地方自治体が実施するセーフティネット保証制度や資金繰り支援策なども倒産抑制につながっている。

 ここまでは自動車メーカーが思い描いた通り順調にコトが進んでいるように見えるが、先行きを懸念する声もある。

 今年7月にはNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が、タカタの乾燥剤入りインフレータを搭載している日産自動車、マツダ、フォードのモデル合計約270万個のリコールを発表した。これまで乾燥剤入りインフレータは、異常破裂などの事故は発生しておらず、リコールの対象となっていないことから自動車業界に衝撃が広がった。乾燥剤入りのインフレータもリコール対象になると対象台数が大幅に膨らむためだ。ただ、NHTSAによると今回のリコール対象は乾燥剤に硫酸カルシウムが使用されているもので、これ以上は拡大しない見通しとするが「油断はできない」(日系自動車メーカー関係者)。

 一方、タカタはKSSに主な事業を移管した後も、乾燥剤入りのインフレータの生産は継続するが、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に対して、19年末までに乾燥剤入りのインフレータの安全性を証明することが義務付けられている。これが立証できなければ、乾燥剤入りインフレータもリコールしなければならなくなる可能性もある。リコール台数がさらに膨れ上がり、自動車メーカーが巨額の負担をさらに背負わされる可能性もある。

 化学物質の経年劣化問題など、臭いものにフタをしたかっこうの自動車メーカー。戦々恐々としながらも、タカタ問題が静かに収束するのを待ち望んでいる。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)

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