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リニア工事はゼネコン談合なければ破綻する…危機迎える建設業界と東大工学部人脈

構成=長井雄一朗/ライター
リニア工事はゼネコン談合なければ破綻する…危機迎える建設業界と東大工学部人脈の画像1山梨リニア実験線で試験中のL0系(「Wikipedia」より/Hisagi)

 リニア中央新幹線建設工事をめぐる不正受注問題について、東京地検特捜部は明確に「談合」事件として捜査を進めている。一方、ゼネコン各社は現在、東日本大震災の被災地の復興工事、東京五輪関連工事、首都圏を中心とする再開発工事を抱えており、バブル期並みの好況の果実を味わっている。

 しかし、ゼネコンを支える専門工事業界からは、「この好況が終わったら廃業しようと思う」という声も聞かれるなど、建設業界全般の生産力の低下は危機的な状況にある。建築エコノミストの森山高至氏は、「かつてない建設好況と生産力低下により受注調整の必要性が生まれた」と指摘する一方、「談合が必要悪と認められない」と指弾。危機が迫り来る建設業界の内情について話を聞いた。

ゼネコン側の理屈

――リニア中央新幹線をめぐり、東京地検特捜部は明確に「談合」事件として捜査を進めています。しかし、全国的な建設ラッシュのなかで、受注調整がなければリニア工事プロジェクトが破綻する可能性も示唆されています。

森山高至氏(以下、森山) 現実問題、受注調整を行わなければ、日本全体の工事プロジェクトの進捗を考えた場合、好景気に沸いている建設業全体の生産力は厳しくなります。

 これは以前の建設不況とかかわってくるのですが、ゼネコンが淘汰されただけではなく、末端の建設作業員も仕事を辞め、ゼネコンの手足となる専門工事会社も廃業したケースがずいぶん多く、建設業就労者数全体が減少しています。これは建設業の生産力が下落していることを意味し、今回の好景気により受注調整の必要性があるとゼネコンのなかでは認識されているのでしょう。

――ゼネコンと専門工事会社との関係性も変化しました。

森山 高度成長時代においては、ゼネコンと専門工事会社は強い団結を誇っており、囲い込みも行っていました。最も団結力が強かったのは竹中工務店の傘下にあった専門工事会社で構成される「竹和会(ちくわかい)」です。竹中工務店の仕事をするのであれば、まず竹和会に入会し、竹中工務店の工事にふさわしい技能を研さんし、同時に交流も深めていかなければなりませんでした。

 ところが、20年くらい前から竹和会に入っていても仕事がもらえないケースが増えてきました。昔は専門工事会社に仕事を発注する場合、現場所長が「今回は高い技能を要するからここに決める」「竹和会会員会社で調整力があるから今回はここ」と決定権の裁量を持っていました。しかし、現場ではなく本社の購買部が権限を持つようになって以来、「価格が安いから」「ISOを取得しているから」などの理由で、必ずしも竹和会会員会社でない専門工事会社でも受注できるようになりました。ある竹和会会員会社の方が、「竹和会の鉄の団結を崩壊させたのは、ほかならぬ竹中工務店だ」と言っていました。

 竹和会ですらこの有様ですので、大成建設、清水建設、大林組、鹿島建設傘下の専門工事会社の団結力も同様に低下しました。ゼネコンと専門工事会社との関係の変化でいえば、この点で、この十数年間により団結が失われたのです。その結果、工事現場のラベルは各ゼネコン名を冠にしていても、実際に作業する作業員はエリアごとに混在するようになったのです。詳しく言うと、ある時は鹿島建設で、別の時は大林組からの仕事を請け負う専門工事会社や作業員が増えたということです。

――建設業は一品生産が基本ですが、製造業とずいぶん違う面もありますね。

森山 これが自動車メーカーであれば、系列の工場、部品メーカーなどを集約して製造します。トヨタ自動車と日産自動車の工場が実は同じですという話はありえないのですが、建設業でいえば、現場で働いている人は各ゼネコンにまたがっているのです。ここに、受注調整が生じる下地があるのです。そこで公共工事を一般競争入札で請け負っても末端系列は同じですから、専門工事会社を含めた各ゼネコン軍団同士で戦争するのではなく、今ある仕事をどのようにこなしていくかという点に、シフトしていっているのでしょう。実は建設好況に沸きつつも水面下で建設業界は危機を迎えようとしています。

建設業界、生産力破綻の危機

――その危機とはなんですか。

森山 私の知り合いの専門工事会社、工務店などの経営者が「この建設好況は3年ほど続くだろうが、それが終わったら休廃業しようと考えている。苦労も多い仕事なのでせがれには継がせない」という方が多いのです。そして、建設技能労働者は今後10年にわたり、約110万人離職するとの試算を日本建設業連合会(日建連)が発表しています。考えられることは、建設業における生産力は現状よりもさらに厳しくなり、生産力が破綻しかねない状況が待っているということです。

――解決方法は?

森山 エリアごとの公共工事で優先順位をつける政治家の登場が必須です。建設業を理解している政治家が、これだけ工事があれば、ゼネコンも請けきれないだろうと判断できる政治家が、どの工事を先に進めるかの優先順位を付けて、建設工事全体のプロジェクトを進捗させるべきです。

 リニア中央新幹線工事では、政治家の関与はないと考えています。今の政治家は予算を付ければいいだろうと考えていますが、そんな単純なことでは公共工事を無事進めることはできません。これだけ工事がない時代が続きましたから、ゼネコンは発注を減らされることを恐れて「工事は請けられます」と言いますが、そんな単純なことではありません。

 そしてもう一つは、徳政令ではないですが、一時期、中小企業金融円滑化法などで金融機関からの借り入れについて返済を伸ばしたケースがあります。これにより、金融機関のデータには、一部の専門工事会社の与信に「返済能力なし」と明記されていて、それが残っています。今は立ち直った専門工事会社も多いのにもかかわらず、新規の借り入れができなくなっています。銀行はノンバンク系列からのデータも取得していますので、専門工事会社も困っています。ここのデータを消去し、現在の経営実態を見て新規融資の是非を判断するだけでもずいぶん違います。

かつての談合、今の談合

――今回のリニア中央新幹線工事では、スーパーゼネコンが土木に強い準大手クラスにも圧力をかけていたことが発覚しています。

森山 土木に強い準大手3社が団結し、大手1社と互角に渡り合えるような努力をすれば業界も面白くなるのでしょうが、スーパーゼネコンと準大手ゼネコンの上下の力関係はいまなお強く、見渡してもそれだけ元気のある準大手はおりません。

 建設不況において、まっさきに倒れたのは準大手です。銀行もスーパーゼネコンと準大手を救済の面で天秤にかけた場合は、やはり優先順位はスーパーゼネコンでした。今後のことも考え、スーパーゼネコンに唯々諾々と従った背景には、逆らわない姿勢になったのではないでしょうか。

――2005年にゼネコンは談合決別宣言を行ないましたが、今回談合が復活したかのように見えます。かつての談合と現在の違いは。

森山 昔は、仕事を取り、価格をつり上げるための談合でした。今は、なんとか仕事をこなす目的での談合です。ほかの業態であれば、生産力以上の仕事が来たら断りますが、建設業は独特の風潮で、「次は仕事を回さない」などと言われるのを恐れ、仕事を断らないのです。

 仕事を請けたら、今度は専門工事会社や作業員の手配が必要になりますが、申し上げました通り、建設業の生産力が落ちていますから簡単なことではありません。発注者も着工時期が遅れればそれだけ工期が遅れるので、「契約違反だ」と責め立てます。さらに、作業員の賃金のアップ、資材の高騰など物価のリスクもゼネコンは背負い込む必要があります。

 ゼネコンに言わせると「だから受注調整が必要なのです」との考えもあるかもしれませんが、それを必要悪と申し上げることはできません。

――必要悪の方便は認められないということですね。

森山 もし、「受注調整」を必要悪とみなすと、今度もっと悪質性の高い値段をつりあげるための談合も行ってくるでしょう。もし、調整が必要であるというのであれば、世間一般に対して「今、何を調整しているか」をオープンにしなければなりません。「我々は清廉潔白で後ろ暗いことは何一つありません」というのであれば、堂々と調整の中身を説明し、世間の判断を仰ぐべきです。

 かつての談合担当者は忍者のような存在でした。出世は一定のところで止まりますが、社長や会長ともツーカーの仲で政治家秘書のような役割を果たしつつも、金回りは良かったです。ところがゼネコンも終身雇用、系列などが崩壊していくと、談合担当者は会社も面倒見てくれません。昔であれば逮捕されたとしても系列の建材会社の部署に逃がしてくれましたが、コンプライアンスも厳しくなった今、そういうこともありません。

――今回、問題視されていることの一つは、東京大学工学部の同窓生同士での談合という点です。

森山 建設業界のお客は、公共工事も含め一般の人々が対象なのにもかかわらず、世間の評価を必要としないという特異な業界特性の表れではないかと思います。恐らく、彼らから言わせれば、「建設業界のことは世間にはわからないから、私たちが運用する」というやや官僚的な考え方を持った方が集まり、今回の談合につながったのではないかと推察しています。

 恐らく副社長や常務クラスの談合といっても、間に課長や秘書クラスの方は入っていないでしょう。これが、昔であれば「副社長の特命であれば火の中水の中」という方もいたかもしれませんが、今では、若い社員であれば「談合なんかしていいと思っているんですか」と上司に反撃してきます。建設不況の際、多くの方が早期退職しましたが、本来であれば残って教育をしっかりとすべきでした。今は、ゼネコン向きでない方が役員になっています。

――これから3年後、あるいはもう少し先かもしれませんが、東京五輪も終わり建設好況が終わったら、建設業界はどうなるでしょうか。

森山 専門工事業界は廃業するケースが増え、ゼネコンもまた価格のダンピングを行う建設不況が再現されるでしょう。しかし、本来優先すべき工事は、寿命を迎えつつある橋梁や高速道路などの社会インフラです。これを大手ゼネコンが独占的に工事を行うのではなく、中堅、中小、ローカルゼネコンでも受注可能な発注形態とすべきです。

 また、地域の工事でも少し大きな公民館などはすべてローカルゼネコンが行うことはなく、スーパーゼネコンが参入します。確かに工事補償の問題点があり、大手が必要との観点もありますが、地域の工事はなるべく地域の会社で行うように制度設計を変更すべきです。今、建設業界に求められていることは、中央にも地域にもリーダーが必要で、リーダーのもとで団結することです。しかし、現実的には目的もなく敵でも味方でもない者同士で争い、話し合っているという応仁の乱のような状態です。建設業ほど、大義に生きる人間が求められている業界はないといえるでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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